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【社説】核持ち込み密約 なぜ真実を明かさない '09/7/15

 政府は一体いつまで、うそをつき続けるつもりなのか。核兵器を積んだ米艦船の日本立ち寄りを黙認する、とした核持ち込みの密約である。米国側や元外務事務次官が相次いで認めている。既に「歴史的事実」だろう。国民に真実を明らかにすべきだ。

 1960年に改定された日米安保条約。核を積んだ艦船や飛行機が通過・寄港する際、日本は事前協議で拒否もできる―と定めている。しかし、その裏にあったのが「事前協議の対象からは外す」との密約だった。

 旧ソ連の核兵器増強という背景があった。しかし冷戦が終わった90年代初頭、米国は艦船から戦術核を撤去する。これによって密約も「過去の遺物」となった。

 時代の変化を映して米国では関連文書の開示が進み、密約の存在が裏付けられた。それを受けて日本の国会でも再三追及されたが、政府は一貫して否定している。

 状況が大きく変わったのは、つい最近だ。村田良平氏をはじめ、日本の元外務事務次官4人が、その存在を認めた。

 証言は生々しい。密約の内容を記した引き継ぎ文書を、歴代の事務次官が保管していた。しかも官僚が選別した政治家だけに知らせていた、という。国民はおろか、有権者の代表である国会議員すら欺いていたことになる。

 さらに密約の本体である英文の秘密議事録が、外務省内で厳重管理されていたことも分かった。

 ただ関連の秘密文書は、2001年の情報公開法施行の前に破棄されたかもしれないという。とすれば外務省は、密約の存在を組織的に隠していただけではなく、証拠まで隠滅したことになる。とんでもないことだ。

 事態の急展開に国会も動き始めた。衆院外務委員会の河野太郎委員長が先週、村田氏らに聞き取り調査した。証言から、密約はあったと判断して「今後は密約を否定する政府答弁は認められない」と、修正を求める委員会決議を目指すことを明らかにした。

 解散を控え、今国会での答弁修正は難しいようだ。しかし「身内」ともいえる与党の委員長の極めて異例な行動である。外務省は重く受け止めなければならない。

 外交や防衛には秘密がつきものだ。ただ必要な期間が過ぎたり相手が同意したりしたものは、公開し検証できるようにしてこそ、政府への信頼感は生まれる。

 このタイミングで、国是の非核三原則を緩めようとの声が一部の政治家などから出ている。北朝鮮の「脅威」を理由にするが、あえて核艦船を日本に「誘致」しようというのだろうか。

 「核兵器のない世界」へ国際世論が高まっている今、目指すのは非核三原則を法制化し、核廃絶を主導する道だろう。

 そのためにも、密約を交わした経緯や当時の国際情勢を検証した上で、「核の傘」が真に日本のためになるのかどうかを含め、非核政策の在り方について国民的な議論を深めたい。


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