中国新聞社
【社説】米大使8・6式典出席 核廃絶を誓う第一歩に '10/7/30

 被爆65年を迎える広島市の平和記念式典に、米国の代表としてルース駐日大使が初めて出席することになった。

 「核なき世界」を提唱するオバマ大統領の就任までは考えられなかったことだ。核廃絶を誓う第一歩にしてほしい。

 広島市は1998年から毎年、核を保有している主要5カ国に招待状を送り続けている。ところが米英仏の3カ国は昨年まで、なしのつぶてだった。

 この夏は英仏両国も代表を出席させる意向で、ロシアも11年連続で参列する。2008年に領事が初めて来た中国は今回欠席するものの、5カ国がそろう日も近いと信じたい。

 米国の狙いは、核軍縮への強い姿勢をアピールすることだとみて間違いない。ルース大使は昨年10月にも広島を訪問した。「私の考え方を大統領に提示するために訪れた。とても深く心を動かされた」と感想を述べている。

 オバマ大統領は被爆地訪問に意欲を示してきた。今回の式典出席は、次のステップへの地ならしでは、との期待が広がるのもうなずけよう。

 原爆を投下した国の代表が初めて、慰霊と平和を誓う日の被爆地に立つ。出席にどんな意味を込め、メッセージを発するのかに注目が集まる。

 米国務省のクローリー次官補は会見で「第2次世界大戦のすべての犠牲者に敬意を表すため」と説明した。原爆投下を正当化する意見が米国内に根強いことに配慮したのだろうか。

 迎える側の被爆者にはさまざまな受け止めがある。「ざんげの気持ちで謝るべきだ」「人類に背いた過ちを率直に認めてほしい」などと謝罪を求めるのは当然といえる。その一方で謝罪にこだわらず、「せめて冥福を祈ってもらいたい」との声も聞かれる。

 日本政府は戦後一度も原爆投下に対して抗議したことはなく、米国の核の傘に頼った安保政策を続ける。こうした状況が被爆者を割り切れない気持ちにさせているともいえる。

 ただ国を代表して被爆地を訪れるからには、被爆者から直接体験を聞き、声に耳を傾けてほしい。

 その上で被爆者が最も聞きたいことが二つあるだろう。原爆の投下は道義的に許されると今でも考えているのか。核大国として核なき世界の追求にどんな決意で臨むのか。率直に答えてもらいたい。

 一方、米国側は被爆地の市民や日本国民が大使の式典出席にどんな反応を見せるのか、慎重に見極めていくはずである。

 潘基文(バンキムン)国連事務総長は今回初めて長崎、広島を訪れる。「人類史上、最も恐ろしい攻撃を経験した」両市で、被爆者が生きているうちに核兵器をなくそうとのメッセージを発信する。

 核兵器廃絶の機運が世界で高まる中で、オバマ大統領の被爆地訪問をどのような形で実現させていくのか。大使の式典出席が持つ意味は大きい。



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