中国新聞社
'13/8/4
【天風録】園井恵子の古里

りんとした空気が漂う。はかま姿で背筋を伸ばし、遠くを見つめる少女の像。生誕100年の園井恵子さんだ。古里の岩手県岩手町を訪ねた。タカラジェンヌから演劇界に羽ばたき、原爆で命を落とした悲劇のヒロインを町を挙げて語り継ぐ▲8月6日という誕生日に運命の皮肉を思う。広島で知られるのも全滅した移動演劇隊の一員として。だが地元では原爆以前に大きな誇りなのだろう。銅像そばの資料室は輝ける時代の写真で埋まっていた▲優しくて心(しん)の強そうな面影。「語り継ぐ会」の代表に生きざまを教わった。家出も同然に宝塚の門をたたいた勇気。実家が破産し一家を背負って踏ん張ったこと。原爆がなければ豊かな実を結んだはずだ。惜しまずにいられない▲みちのくの地で「未完の大女優」に光が当たるのは3・11の教訓でもあろう。6日開幕の生誕100年事業は舞台や出演映画の上映に加え広島の被爆体験を聞く会も。「平和の使者」としての意味が強まる▲地元では園井さんを通じて原爆を学ぶ平和学習も始まった。熱意に共鳴したのだろう。6日は広島でも、宝塚の後輩が生涯を語る朗読劇がある。運命の糸がつなぐ二つの地が一つに。

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