中国新聞社
'13/8/7
原爆症認定に口重い首相 被爆者ら「もう時間ない」

 ▽安全運転に落胆の声

 安倍晋三首相が臨んだ2度目の広島原爆の日。先の参院選で大勝し、長期安定政権の基盤を固めた中、申請却下が相次ぐ原爆症認定制度の見直しに踏み込んだ発言はなく、「安全運転」に徹した。6年前の前回は原爆症認定集団訴訟の終結へ道を開いただけに、被爆者たちから落胆の声も上がった。

 広島市の平和記念式典後、中区のホテルであった「被爆者代表から要望を聞く会」。広島県被団協(金子一士理事長)の大越和郎事務局長は、原爆症認定制度を含めた被爆者援護法の抜本改善を訴えた。被爆者の平均年齢は78歳を超え、「もう時間がありません」。

 認定制度について安倍氏は「より良い制度となるよう精力的に見直していきたい」と答えた。厚生労働省の「原爆症認定制度の在り方に関する検討会」の最終報告を年内をめどに出させると表明した。

 原爆症の認定基準が2008年4月に緩和された後も、申請却下は相次いだ。これを受け民主党政権が10年12月に検討会を設置。だが日本被団協の委員とそれ以外の委員で新制度案や残留放射線の健康影響の評価をめぐって意見対立が続き、議論は長期化している。

 「検討会の結論は期待できないというのが率直な感想。良い方向に進まなければ意味はない」。大越事務局長は声を落とした。

 認定制度をめぐっては、自民党国会議員でつくる議員連盟が、被爆者の早期救済に積極的な姿勢を首相が6日に示すよう、官邸に水面下で促していた。

 だが、爆心から3・5キロ以内で被爆した人が白血病やがんを発症した場合、全員を救済する、などの具体的な議連の提案内容に安倍氏は言及しなかった。

 安倍氏は第1次政権時の07年夏、広島で認定制度の見直し検討を指示、要件緩和につながった経緯がある。だからこそ議連メンバーも被爆者も発言に期待した。

 だが07年は直前の参院選で大敗し、衆参のねじれが出現した直後だった。自民党関係者は「安定政権を得て今回は時間があるということだ」と推し量る。

 議連の寺田稔代表世話人(広島5区)は「前向きな言葉をいただいた」と評価したものの、「政治主導」による被爆者の早期救済への道筋は見えない。もう一つの県被団協の坪井直理事長は、期待を込めて言った。「今日の首相発言は重い。あとは政治判断。これで逃げられたら乗り込まんといけん」

【写真説明】被爆者代表から要望を聞く会であいさつする安倍首相(撮影・安部慶彦)



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