赤十字病院に被爆女性木像/ガラス片埋まる

'98/7/31

 広島市中区の広島赤十字原爆病院にある高さ約百四十センチの女性の 木像の中に、原爆の爆風で突き刺さったとみられるガラス片が埋ま っていた。同病院のエックス線撮影でわかった。この木像は、御調 郡御調町出身の文化勲章受賞者で名誉県民でもある彫刻家、圓鍔 (えんつば)勝三さん(92)の作。

 ガラス片が埋まっていたのは、木像の左手の甲の部分。正面から のエックス線写真によると、長さ約一センチ、幅約三ミリのくさび形に見 える。像の左側に無数の傷があることから、左側から爆風を受け、 ガラスがつき刺さったものと思われる。

 戦後、木像は左腕が折れたまま、病院の講堂の隅に置かれてい た。七八年、折れた腕の修復を圓鍔さんに依頼した。その時、修復 を手伝っていた彫刻家で息子の元規さん(60)は、木像の中から厚み のあるガラス片一個を見つけた。元規さんは「木像はたぶんクルミ の木だった。とても堅く、簡単にガラスが刺さるようなものではな かった。びっくりしたのを覚えている」と話している。

 今月初め、その話を元規さんから聞いた富重守院長が、エックス 線で木像を撮影し、左手の甲の部分にガラス片を発見した。「圓鍔 さんの作というだけで貴重なのに、被爆の跡も残している。ぜひ多 くの人に見てもらいたい」と富重院長。

 この木像は「調べ」と呼ばれ、楽器を奏でる女性の陶酔した表情 と、女性の持つ柔らかな曲線美が表現されている。第十五回帝展 (一九三四年)に入選し、現存する圓鍔作品の中では二番目に古 い。四〇年前後に、当時の日本赤十字社広島支部病院に寄贈された らしい。現在はガラスケースに入れて、同院の本館アトリウムロビ ーに飾られている。

【写真説明】圓鍔勝三作の木造「調べ」。燕カ手の甲にガラス片が突き刺さっている(エックス線撮影)


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