被爆当日の瞬間を水彩画で再現/資料館に寄贈へ

'98/8/1

 爆心地でただ一カ所、空白になっていた広島市旧中島新町の戸別 地図をつくった無職木村太矩次さん(68)=中区中島町=が三十一 日、五十三年前の八月六日を描いた連作の水彩画十一枚を完成させ た。戦後初めて絵筆を取り、胸につかえていた記憶を再現した。近 く原爆資料館に寄贈する。

 西区南観音町に疎開していた木村さんは、動員学徒として安佐南 区祇園の軍需工場に向かう途中、中区の小網町付近の路上で被爆。 B29が原爆を投下した瞬間の午前八時十四分から、江波地区に避難 した午後八時までの半日間を、A3判のスケッチブックに描いた。

 黄色い閃(せん)光を目にした記憶や、まくら木が燃える天満川 の鉄橋を線路伝いに渡った体験をはじめ、高熱によって皮膚を垂ら しながら避難する市民、大粒の黒い雨が降る様子など、記憶をたど って克明に表現。それぞれに、説明文も書き添えた。

 今年六月、木村さんは、中島新町の元住民とともに、原爆で消え た町並みを戸別地図に再現。互いの記憶を掘り起こすうちに、「心 の中にある自身の8・6体験を残したい」との思いに駆り立てら れ、水彩絵の具を購入、わずか一カ月で描き上げた。

 原爆で父と妹を失った木村さんは「五十三年前の原体験を、なん らかの形にしておきたいという願いが、ようやくかなった。頭の中 に浮かぶ光景を力いっぱい描き尽くし、気持ちの整理もついた」と 話している。

【写真説明】8月6日を描いた連作の水彩画11枚を完成させた木村さん


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