旧十日市町の戸別地図完成/広島

'98/8/2

 原爆で壊滅した広島市中区の旧十日市町で暮らしていた住民が一 日、生まれ育った町の戸別詳細地図を完成させた。お互いの記憶を 頼りに、世帯名や家業を一年がかりで復元した。被爆五十三年の8 ・6を前に、全国に離散した隣人たちに発送する。

 地図を作ったのは、佐伯区五日市一丁目の主婦山本正子さん(72) と福山市川口町三丁目、無職重住澄夫さん(70)の二人。山本さんは 「原爆で離ればなれになった友人や知人と再会したい」との思い で、五年前から町内会の名簿づくりに取り組んできた。

 昨年七月、戦後初めて元住民たちによる「町内会」を開催。東京 や大阪などからやって来た幼なじみと再会した。思い出話に花を咲 かす中、「元気なうちに、生まれ育った町を再現してほしい」とい う多くの要望を受け、重住さんとともに地図づくりに入った。

 五十年を超す記憶の空白を埋めるため、名簿づくりで消息を探し 当てた三十四人の元住民と連絡を取り、一軒ずつ白地図を埋めてい った。その結果、九十八戸すべての世帯主氏名と、駄菓子屋や呉服 屋、帽子商などの家業を突き止めた。幼なじみが住んでいた隣町の 旧油屋、猫屋両町の一部も復元した。

 爆心から約七百メートルの旧十日市町は、旧国道沿いに商店がひしめく 繁華街だった。が、原爆によって町は全壊。生き残ったのは、学童 疎開などで古里を離れていた若い住民ばかり。山本さんは「地図に 名前を書き込みながら、いかに原爆による犠牲者が多かったか、あ らためて気付かされた」と表情を曇らせる。

 原爆で両親を失った重住さんも「復元作業をしながら、戦後の苦 労がよみがえってきた。亡くなった肉親たちを供養する思いを込め た」と振り返る。

 地図の完成を記念し、今秋にも二回目の「町内会」を開く。二人 は「原爆で立ち消えた隣近所の付き合いを、今からでも取り戻した い」と話している。

 市内では、昨年の旧猿楽町を皮切りに、旧天神町南組、旧中島新 町などの元住民が、原爆に消えた町の戸別地図を復元させている。


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