原水禁と原水協が多彩な分科会

'98/8/6

 原水禁系と原水協系、二つの原水爆禁止世界大会広島大会は五 日、多彩な分科会を広島市内で開いた。「日本の核政策を問う」と 題した原水禁系の分科会には、初めて軍縮担当の外務官僚がパネリ ストで参加。「対立型から対話・提言型」への転換を模索する原水 禁運動の新しい流れを印象づけた。

 参加したのは外務省軍備管理軍縮課の森野泰成首席事務官。冒 頭、核拡散防止条約(NPT)の堅持などインド、パキスタンの核 実験を受けた政府の基本政策をアピールした。

 これ対し、インド、米国の代表は「核廃絶の立場を示しながら、 米国の核の傘の下にいる日本政府は偽善的」などと厳しく批判。社 民党や民主党の衆院議員も、被爆国としての日本の核政策に疑問を 投げ掛けた。

 森野氏は「核の傘を放棄しても日本の安全は守れるという自信は ない」と反論するなど、政策議論では他の出席者との意見の違いが 際立った。

 一方で、大阪大の黒沢満教授が対人地雷全面禁止条約の実現に非 政府組織(NGO)が中心的役割を果たした経緯を踏まえ「政府へ の働き掛けも重要」と森野氏の出席を歓迎。秋葉氏も「核廃絶の意 思を政府に反映させる運動の再構築も求められている」と、NGO と政府の対話の必要性を指摘した。

 原水禁は七月中旬、「運動で培った核廃絶の理論を、政策に反映 させる必要が高まっている」として外務省に出席を要請した。討論 を終えた森野氏は「政策を理解してもらうと同時に、NGOなどか ら様々な意見を聞く意義は大きい。今後も積極的に協力していきた い」と話していた。

 一方、原水協系のパネル討論「核兵器のない二十一世紀への道」 でも、日本の核政策をどう変えていくか、という課題をめぐる発言 が相次いだ。自民党が惨敗した先月の参院選挙の結果を受け、名古 屋大の沢田昭二名誉教授は「日本政府を非核の政府に変えるのは可 能だ」と強調していた。

 ▽原水禁世界大会海外代表に聞く

 五月のインド、パキスタンの相次ぐ核実験により、アジアは新た な核軍拡危機を迎えた。広島での二つの原水禁世界大会に出席して いる中国、韓国、スリランカ、フィリピンの各代表に、母国での受 け止めと、核軍縮に向けた被爆地への期待を聞いた。

 中国 劉 鳴さん(40)=軍事アナリスト

 この五年間、中国はインドとの関係を改善してきた。核実験も中 止し、米国とは戦略核の「照準外し」で同意した。こうした核軍縮 努力に背を向け、印パは核実験を強行した。核軍縮が進みつつある 今、インドの実験に必然性はない。

 核保有を正当化するため、インドは中国の軍事的脅威を叫んでい る。現在、中印の国境で対立はない。中国の核保有も、米、旧ソ連 の核独占を許さないためだった。広島、長崎は、核保有国と保有疑 惑国が包括的核実験禁止条約(CTBT)に批准するよう、抗議の 声を強めてほしい。

 スリランカ ペマラターナ・ワラゴダさん(60)=ビクシュ大学総長

 スリランカは印パ両国に中立の立場を取っているが、南アジアの 二つの大国の核戦争に巻き込まれる不安は大きい。われわれが信仰 する仏教はインドから伝来しているだけに、核大国を志向したイン ドの実験はショックだった。

 わが国の政府は表立った抗議はせず、沈黙を保っている。インド に対する軍事的脅威に加え、国北部に潜伏するヒンズー教徒ゲリラ の反発を恐れているためだ。だが、民衆は印パの核に反発を強めて いる。日本は平和憲法を持つアジアの一員として、反核のリーダー シップを発揮してほしい。

 韓国 李 三星さん(40)=カトリック大学準教授

 印パの核実験は、東アジアの各国が軍拡競争を進め、日本もこれ を機に核開発に踏み切るのではないかという不安や心配を、韓国に 与えた。核兵器を持つことは相互不信を深めるだけ。韓国、朝鮮民 主主義人民共和国(北朝鮮)、日本の三国でも、不信感が軍拡を進 めてしまう。

 三つの非核国が信頼関係を築いて北東アジアの非核化を実現すれ ば、アメリカ、中国、ロシアの核兵器を廃棄させる圧力になる。日 本もアメリカの「核の傘」に頼らず、信頼をてこに平和と安全を確 保する方向に考えを変えてほしい。

 フィリピン コラソン・ファブロスさん(48)=非核フィリピン 連合事務局長

 印パの核保有により、アジア地域がどれほど危機的な状況になっ ていくのか予測がつかず、国民の不安は大きい。地域紛争は、すぐ にも周辺諸国に波及しかねないからだ。すぐに緊急シンポジウムを 開いた。印パに自制を求めていくと同時に、両国を非難するだけで は何も解決しないというのが共通認識だった。

 自国の核政策の不当性を隠そうとする米国こそ、追及しなければ ならない。ヒロシマの惨禍を共有し、核大国を包囲する国際世論づ くりが急務。被爆者の訴えに共感する人々を、核擁護勢力は最も恐 れている。

【写真説明】外務省の森野首席事務官(手前から4人目)も出席し、日本の核政策をめぐって話し合った原水禁系のパネル討論


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