中国新聞社
99.5.7

 
川崎 哲さん

太平洋軍備撤廃運動スタッフ
川崎 哲さん
築け非核市民ネット

〈中〉
 
三宅 信雄さん<

東京都原爆被害者団体協議会(東友会)事務局次長
三宅 信雄さん

「欧州との懸け橋目指す」

 湾岸戦争の時に大学生だった僕は、自衛隊の海外派兵反対で平和運動の世界に入った。「日本の軍隊をかつて侵略したアジアに再び行かせまい」がスローガンだった。ところが、例えばフランスの運動家は「かつての宗主国の責任として派兵すべき」と主張する。この違いは何なのか。

 アジアでは軍事政権と対じするなど反体制運動が多い。欧州では非政府組織(NGO)が政府の政策決定過程に参画するなど社会的影響力を持つ。民主主義の成熟度の違いがあるのだろう。日本の運動は反対を叫ぶばかりで、地域紛争の解決に何も貢献できていないのではないか。それでいいのかと自問している。

 コソボをめぐる紛争に、欧州の平和運動家たちはどんな意見を持つのか、ハーグでじっくり討論して持ち帰り、私たちの運動を鍛える糧としたい。さらにアジアと欧州の市民運動の懸け橋役となることも、宿題の一つだと思っている。

 日本政府の提唱で始まった「核不拡散・核軍縮に関する東京フォーラム」に対し、私たちは市民版フォーラムを開き、被爆国民の声を核保有国に伝える取り組みも続けている。そうした活動も報告するつもりだ。

「雲下の地獄絵語りたい」

 湾岸戦争で茶の間のテレビに映し出されたピンポイント爆撃が忘れられない。上空から見下ろす絵空事のような映像から、いったいどれだけの人が、あの下で起きている現実を想起できたか。原爆も、きのこ雲だけで語られてはだめだ。ヒロシマの生き証人として、雲の下で体験した地獄のような大惨事をハーグで語りたい。核兵器の一発残らずの廃絶を訴えたい。

 コソボをめぐる紛争で、武力では何も解決しないことを世界の人々は痛感している。軍備反対の運動が再び盛り上がりを見せている今、ハーグの会議はまさにタイムリー。核抑止力の妄想にとらわれる大国、核兵器廃絶を「究極的」な目標としか語れない日本政府には幻滅を覚えるが、ハーグに集う民衆の力を結集すれば、為政者を動かせる。

 原爆被害がどれだけ世界に伝わったか、むなしさも感じる。被爆五十年を境に、私たちの証言機会も減りつつあった。しかし、インド、パキスタンの核実験で、学校などからの証言依頼が増え始めている。子どもたちの真剣なまなざしを心強く思う。人類は恐るべき核兵器を生んだ。だが、核のない新世紀を迎えるのもまた、人類の使命なのだ。


 〈NGO〉一般的には政府以外の民間組織全般を指すが、その起源は国連経済社会理事会と民間団体との協議を定めた国連憲章71条。NGOの反核運動は欧州で80年代初頭、核ミサイル配備に反対する大規模集会が相次いだころから盛り上がり、最近では96年7月、国際司法裁判所から「核兵器は一般的に違法」との勧告的意見を引き出した世界法廷運動で、法律家や医師らのNGOが活躍した。

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