中国新聞社
99.5.18

核廃絶は共通語

保有国包囲へ連帯を

市民の地道な行動促す

 架空の諜(ちょう)報機関「MI8」が、ひそかに非政府組織(NGO)を調査した。核兵器廃絶を目指す運動の十一の目標について、それぞれ達成度を採点し、成績表を付けたというのだ。総合すると百十点満点中、四十八点・・・。

▼達成度を自己採点

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 ハーグ平和アピールの会場で、日本人参加者から教わりながら核兵器廃絶の願いを込めたつるを折る少女
 分科会の一つ、来年までに核兵器廃絶条約の実現を目指すNGO共同キャンペーン「アボリション(廃絶)2000」の集会で、欧米の女性運動家たちがユーモアたっぷりの発表をした。項目ごとの採点とその理由は、例えばこんなふうだ。

 『二〇〇〇年までに核兵器廃絶条約を締結するため、すべての国がただちに交渉を始める』六点。メディアの注目度がまだ低いから。

 『核保有国は核兵器の使用や威嚇を行わないとただちに無条件で約束する』二点。中国の意向がよくわからない。

 『核兵器開発の禁止を明記した真に包括的な核実験禁止条約を締結する』四点。現在、包括的核実験禁止条約(CTBT)はあるが、臨界前核実験は対象外で、より高性能の爆弾が開発可能。

▼軍縮停滞に危機感

 運動家たちは、「霧の中を歩くと(雨ではなくても)びしょぬれになる」との言葉で核軍縮の停滞に危機意識を表し、運動の強化を呼びかけた。インド、パキスタン核実験の強行、第二次戦略兵器削減条約(STARTU)のロシアの批准の遅れなどを見る限り、成績表が示すように廃絶は霧のかなたである。

 だが、アボリション二〇〇〇に現在、八十七カ国、約千四百のNGOが加わっている実態は、「廃絶」がすでに世界の市民の共通語になったことを意味する。会場からも「私たちが核を語る時、もう軍備や軍備管理ではなく、廃絶へと言葉を変えたのだ」との発言が続いた。

 その共通語を基に、核保有国へ廃絶を迫る包囲網をどう築いていくか。

 ハーグ平和アピールでの論議を待つまでもなく、その方法論は出そろいつつある。市民サイドから考えれば、核抑止論の無意味さ、愚かさを論破し、地方自治体や議会などの協力を得ながら政府の姿勢を反核へ転じるように迫り、そうして広げた非核保有国の輪で保有国を締め付ける作業を地道に続けることしかない。バングラデシュの女性宰相シーク・ハシナさんは閉会式で、「市民社会がイニシアテチブをとれば必ず平和はやって来る」と訴えた。

▼絶望せず平和希求

 会議では、核拡散防止条約(NPT)に違反するとして核保有国を国際司法裁判所に提訴するアイデアや、朝鮮半島と日本の三国による非核地帯条約の実現ステップなど、新しい提案もあった。そうした廃絶プログラムを実現するためにも、NGOのリーダーたちは「世界は一つの屋根の下。平和を求めるのに絶望してはならない」などと連帯と世論喚起を唱え続けた。

 核兵器の廃絶が世界市民の共通認識となった今、その原点である被爆地がどんな行動を起こすか。ハーグがヒロシマに提起した課題は、それに尽きる。

ハーグ発平和
〈上〉

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