2000/8/29 ![]()
病続き 住民に疑念 ◇警備隊は「関係良好」
「そっちの建物は撮らないでくれ」。険しい表情で、国境警備隊のサパル・バイメナフ大尉(30)がカメラの前に立ちはだかった。「中国側からこちらの動きが見える。刺激したくないんだ。隊員の姿も写してはだめだ」。訓練だろうか、迷彩服姿の若者たちの列がわきを走り抜けた。矢継ぎ早に発する警告の言葉に、緊迫感がにじむ。
■「放射線量は正常」 カザフスタンと中国の国境の町バフティー。一帯の警備隊長として最前線を取り仕切るバイメナフ大尉の案内で、国境間際まで近寄ることが出来た。警備隊の施設がある数百メートルほど手前。建物の先には、緩やかにうねる草原を分かつように有刺鉄線が張られていた。 「戦争を起こさないために、われわれはここにいる。中国とのトラブルはないし、可能な限り平和的に解決していく」。バイメナフ大尉は、良好な両国関係をアピールする。 中国の核実験について尋ねると「放射線量は正常だ。ここら辺では小鳥も飛び回っているし、何の問題もない」と間髪入れずに答えた。「わが国のナザルバエフ大統領は中国に核実験停止を求め、中国は今、実験をしていない。中国は偉大な隣人だ」
旧ソ連時代、現在のカザフスタンと中国との国境は定まっていなかった。カザフ独立宣言(一九九一年)後も、両国間の緊張状態は続いていたが、九四年に中国と国境協定に合意。今はすべての国境画定を終えている。 ■一時の緊張和らぐ 中国とロシア、カザフなどの隣国が、互いに国境兵力の削減に合意するなど、一時の緊張は和らいでいるという。カザフのバザールには中国製の食料品や衣類などの品があふれ、経済の結び付きの強さも感じさせる。 西に五十キロほど戻り、一帯の警備隊の本部を置くマカンチに着いた。約三万六千人が暮らす比較的大きな町だ。だが、ここでは大尉のような楽観的な声を聞くことはなかった。 町のバザールに立ち寄った。店を切り盛りする女性たちが、日本から取材に来たことを伝えると集まってきた。「大人も子どもも病気になる」「息子二人が亡くなったのは、ロプノルのせいだ」…。女性たちの口ぶりは、次第に熱を帯びていく。 一人の主婦が、はき捨てるように言った。「東から強い風が吹く時は、家の外に出るなって子どもたちに教えているんだよ」 マカンチ地区病院に入院していたジナーラ・ミルセーイトワンさん(20)は「ロプノルのせいだといっても、政府も助けてくれない。どこに訴えていいのか」と言う。初めての子を自然出産できず、二週間前に入院。検査で腎臓(じんぞう)の悪化、重度の貧血、甲状腺(せん)肥大と診断された。担当の若い医師は「こんな状態でよく子どもが生まれた」と、傍らで肩をすくめた。 ■「偉い人は知らぬ」 病室を立ち去ろうとした間際、ミルセーイトワンさんがつぶやいた。「政府の偉い人は、この町の病人なんか知らないんでしょうね」 天井を見据えて話す彼女を見ながら、バイメナフ大尉が中国を称えた「偉大な隣人」との言葉を思い出し、その落差を実感した。
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