(いずれもドイツ生まれのバラ)
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19. ドイツの村祭り
花車からこぼれる笑顔。フランクフルト近郊の村で「花の数なら世界一」というバラ祭りに出会った。約50万輪で飾ったパレードは圧巻―。
文・杉本喜信 写真・大村 博
*** 50万輪、園芸発祥の地パレード ***
笑顔誘う愛らしき花車
広場に集結したバラの花車。観光客が取り巻き、甘い香りが漂う

 小さな村の広場にファンファーレが響く。「さあ出発だ」。約50万個のバラが登場する祭りの花「バラ馬車パレード」が始まった。

 バラ苗産地で知られるドイツ・フランクフルト近郊のシュタインフルト村。2年に一度のバラ祭りは最高潮を迎えていた。昨年7月のことだ。

 花の数なら世界一とも言われるパレードには、色とりどりのバラで飾った12台の花車(幅2・5メートル、長さ5メートル)が登場。馬ならぬトラクターに引かれて村の中心部3・5キロをゆっくりと進む。

 一緒に出場するのは、女性コーラスやバイク同好会など趣味のサークルを中心に70団体、約1500人。楽隊の演奏に合わせ、老若男女がバラを手に笑顔を振りまく。

 祭りは第一次大戦前の1912年、バラの展示会としてスタート。国土が荒廃した第二次大戦を経た後の50年、「バラの村の復興を盛大に祝おう」とパレードが加わった。

 ここシュタインフルト村はドイツのバラ園芸の発祥の地。日本が明治維新を迎えた1868年、英国で栽培法を学んだ村人がこの国初のバラ園を開いた。

 祭りの発展と歩調を合わせるようにバラ農家も増えた。今や60戸で年間約500万本の苗を出荷するドイツ有数の生産地に成長。パレードを飾るバラの多くは、村の農家が無償で提供している。

花車を引くトラクターの運転席の親子。沿道の声援にこたえる

 「眠れる森の美女」「リオのカーニバル」「ベニスの夜」…。パレード終点の審査会場に趣向を凝らした花車12台がズラリと並んだ。2年に一日だけ披露される華やかなバラの芸術作品。大勢の観客が取り巻き、香りを確かめたり、中に乗り込んで記念撮影をしたり。夜になれば、自由に花を持ち帰れる。

 花車の準備には、1カ月を要す。1台当たり3〜5万個の花は、前日に村人たちが一気に飾り付けた。

 祭りは、公会堂でのバラ展示会や「ばらの村」の将来を考える討論会、ダンスパーティーなどもあり盛りだくさん。人口2300人の村は、約3万人の観客で埋まった。

 「日本のバラ祭りはどれくらいにぎわうのか?」。夕方、パレード実行委員会を訪れると、委員長のヘルムート・ファルクさん(50)が聞いてきた。昨年の福山ばら祭は3日間で68万人。「そちらもひょっとして世界一のバラ祭りじゃないか…」。ファルクさんは握手を求め、地ビールを盛んに勧めてくれた。

■シュタインフルト村

 ドイツのバラ会が選定した「ばらのまち」の一つ。バラ苗生産組合の試験場(350種、1万本)をはじめ、多くの農家がバラ園を開放している。バラの栽培史や文化を分かりやすく展示した「バラ博物館」もある。市町村合併の結果、村は現在、温泉療養地として知られるバードンナンハイム市の一部になっている。


リオのカーニバルの花車。サンバのリズムでパレードを盛り上げた
村のメーンストリートを進む「眠れる森の美女」の花車。沿道は観客でいっぱい
バラの冠をかぶり、花車の上から笑顔を振りまく少女

愛車をバラで飾り、2人乗りでゆっくり進むバイク同好会
色とりどり400種7万本が並んだバラ展示会
バラのアーチを手に、歩きながら演奏と歌を披露する農村女性会の合唱団

2001.5.20

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