「ボーダレス」を模索
太鼓と小太鼓、手打ちがね、笛の音が響く。神楽歌に合わせた豪快なばちさばき。テンポは徐々に速くなる。だが、はやしだけが続く。舞のない神楽「胴の口」だ。
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はやしだけの演目「胴の口」を練習する宮乃木神楽団。管沢秀巳団長(奥中央)を柱に、良典顧問(手前左)らが古来のリズムを刻む
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「はやしの基本を習得できる。そうすれば、別の演目にも広がりが出る」。年明けから練習を始めた広島市安佐北区の宮乃木神楽団の管沢秀巳団長(47)は力を込める。神ばやしや鬼ばやしなど基本の型が凝縮する。
兄の良典顧問(48)も「神楽の歴史や所作の意味を学び、先人の苦労や心意気を味わいたい」と言葉を継いだ。
管沢兄弟は一九九二年、スーパー神楽を生み出した中心メンバーだった。一年おきに三演目を発表した。斬新なストーリー、照明や音響を使う派手な演出。たちまち観客の心をつかんだ。しかし、客の望む目新しさばかりを追う姿に、兄弟には徐々に違和感が増した。
「本来の神楽を離れてしまうのではないか。原点に返ろう」。九八年一月、仲間四人を含む六人で宮乃木神楽団を設立。競演大会には出ず、昔の型を守り続ける安芸高田市高宮町の梶矢神楽団に、「神降し」など旧舞を習い始めた。
当時、神楽ビデオが普及。口伝えで口上や所作を継承してきたが、ビデオから格好の良さだけを取り込んだ神楽団も見受けられた。
「古い神楽には歴史や時代背景があり、宝が埋まっている。おざなりにされている今こそ、むしろ新鮮に映るはず」。秀巳さんは感じる。
この姿勢は、団のホームページに現れる。団員紹介に加え、「蘊畜(うんちく)事典」「集中講座」などが並ぶ。演目の時代背景や小道具の意味など、客に向けた情報発信だ。
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「由来が分かればイメージが膨らみ、舞にリアリティーが出る」と団員の上駄崇志さん(20)。派手な新舞を好む傾向がある若者たちも、管沢兄弟の世界にのめり込む。団員の山本貴範さん(28)も「三歩進んだら、二歩下がる。昔の神楽を踏まえれば、確かな一歩を踏み出せる」と強調する。
「手探りの連続だが、こだわりを持ち続ければ、舞手も観客も満足する神楽が生まれる」。管沢兄弟は口をそろえた。スーパー神楽を発端に、旧舞を習い、新舞に生かす今、それぞれの良さを取り込む「ボーダーレス」な神楽の模索を続ける。
(岡本玄) =第一部おわり
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