魅力を伝える広告塔
ひっきりなしに車が行き交う広島市安佐南区の西原地区。アストラムライン西原駅から国道54号に向かって、七、八分歩く。マンションや商店、民家が立ち並ぶなかで、左手に不思議な建物が見えてきた。
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「多くの人に、神楽の魅力に触れてほしい」。自慢の自宅前で、思いを語る岡崎さん
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土蔵のようなしっくいやこて絵風の壁に、鬼やキツネなどの神楽面がずらり。神楽大会の写真など約二十枚が張られ、歩行者や車を見下ろす。ちょうちんやヒョウタンなど小道具も並ぶ、文字通り「神楽館」だ。
意を決して、玄関のチャイムを押した。中は普通の生活スペースで、出てきたのは、ねじり鉢巻き姿の左官岡崎琢美さん(59)。「にぎやかで、楽しい神楽の雰囲気が伝わってこないかい」。派手な姿とは裏腹に、照れくさそうにほほえんだ。
旧芸北町(北広島町)出身。物心ついたころから地元の秋祭りに出掛け、父のひざの上で華やかな神楽舞台を見上げた。十五歳から左官の道へ。見よう見まねで職人技を習得する難しさや、高度成長期に右肩上がりに増える注文に追われ「知らぬ間に神楽から遠ざかった」という。
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転機は、一九九八年に訪れた。安芸高田市美土里町に神楽門前湯治村がオープンし、神楽人気が上昇。秋限定だった神楽が一年通して上演されるようになり、楽しむ機会が増えた。仕事の合間でも、見に行くことができるようになった。
観光協会や商工会など主催者に電話で確認していた上演情報は今、急速に普及したインターネットで調べることができる。「神楽好きには便利だが、インターネットで探してまでは見ない都市の人たちも多い」。左官経験を生かして神楽の魅力を伝える方法を考えた結果、たどり着いたのが「神楽館」だった。
錦帯橋を模した太鼓橋や神社の拝殿―。広島市安芸区から山口県美和町まで、十カ所以上の民家や蔵の外壁をこて絵風に装飾してきた。モルタル材を塗り、着色して防水加工。九八年ごろから自宅外壁に演目の舞台となる岩屋や山、神社など同様の装飾を施すようになり、神楽の広告塔に仕上げた。
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インターネットで調べた情報から集めたポスターも日々、張り出す。近くの祇園法輪幼稚園の今津芳文園長(54)は「子どもにとって、珍しい物ばかり。見るたびにどこか変わっていて、園児も喜んでいる」と見守る。
日々の仕事でも、古い日本家屋などへの関心が高まっていると岡崎さんは感じる。「頭の中だけでは説明しきれない『日本らしさ』が見直されている。神楽も自宅も多くの人に見てもらい、独特の雰囲気を体感してほしい」と呼び掛ける。
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