2005.6.8
2. 地域の愛 寄付や施設に

「名を広め恩返しを」

 「みなさんで神楽ドームへ行こう。桑田の神楽を盛り上げよう」。威勢のよい掛け声が、山あいの田園に響き渡った。安芸高田市北西端にある美土里町桑田地区の交流集会施設「桑田の庄」。地元住民約九十人を乗せたマイクロバス二台は、神楽と温泉を満喫できる同町本郷の「神楽門前湯治村」に向けて出発した。

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桑田天使神楽団の定期公演を応援するため、バスに乗り込む住民。後ろは「桑田の庄」

 湯治村の定期公演で、地元の桑田天使神楽団(三十三人)が単独出演した五月二十九日。この日が農休日だった桑田地区では、県無形民俗文化財「桑田のはやし田」が演じられた。桑田はやし田保存会の沖野定夫会長(73)は「神楽を一生懸命練習し、頑張っている若者の晴れ舞台を見届けたい」と、はやし田を約三十分で切り上げて応援に駆け付けた。

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 約七百五十人が詰め掛けた神楽ドームでは、役者が登場し、口上を述べるごとに掛け声が飛び交い、拍手が起きた。「幼いころから知っている子たちが立派に頑張っていて、胸が熱くなる」。主婦藤原靖子さん(64)は会場の歓声が心地よく、誇らしく思えた。

 桑田地区の、神楽への愛情は半端ではない。一九八〇年代、後継者難などで直面した団存続の危機を救ったのは、七十戸の住民たち。当時の自治会役員の折田雅彦さん(73)らが神楽を続けてもらおうと、寄付を募った。各戸平均十万円、地区出身者からも寄せられた計一千万円で衣装を新調し、神楽団に贈った。

 木造平屋約五百三十平方メートルに、幅約十メートル、奥行き約五メートルの神楽舞台や農業振興の設備を備えた交流拠点施設「桑田の庄」の建設構想も、このころ浮上した。十回を超える会議を重ね、住民総意で建設を承認。町内では「湯治村の奥座敷」とも呼ばれる施設を、〇二年五月に完成させた。

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 「地域の盛り上がりに応えようと、若者たちが奮起してくれると信じていた」。折田さんは振り返る。役場、農協などの合併で主要な勤め先が遠くなり、地域を守る人材が育ちづらくなってきた。それでも、「地域の財産である農業と神楽が充実していれば交流も生まれ、離れた人も帰ってくる」と信じる。

 桑田天使神楽団の公演後、帰りのバスに乗る住民に、丁寧に頭を下げる団員がいた。清水一彦団長(45)と上田正春副団長(37)、藤井伸樹さん(33)だ。「地域の理解、支えが団のよりどころ。公演で団を知ってもらい、桑田の名前を広めて恩返ししたい」。清水団長は決意を胸に、見えなくなるまでバスを見送った。


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