2005.6.11
5. 保育に導入 郷土愛も養う

卒園生が地元で活躍

 「先生、今日は『トンツク』しないの?」。保育士の女性に体をすり寄せ、神楽の練習をせがむ園児たち。「お花の水やりを済ませたら、みんなでやろうね」。スコップを振り回し、鬼の役になりきっていた園児は笑顔を浮かべ、園庭の花壇に育つアサガオの小さな芽に水を掛け始めた。

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岩見所長(奥中央)たちの指導で、自慢のポーズを決める新庄保育所の園児ら

 ゼロ歳から就学前までの四十七人が通う、北広島町新庄(旧大朝町)の新庄保育所。県内で初めて一九七九年、保育に郷土芸能の神楽を取り入れて、四半世紀。「園児神楽」を経験した卒園生は、昨年度までで三百二十四人に上る。

 水泳用の帽子や新聞紙などをフルに活用し、手作りの衣装や小道具で巧みに舞う。一般の神楽演目をベースに、酒を毒ミルク、信州の戸隠山を地元の寒曳山にアレンジした演目「新・新・新紅葉狩」がおはこ。面や衣装の早変わりなど、大人顔負けの演出もこらす。

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 今年は四月中旬から、年長の七人が練習に励んでいる。「将来、地元に住み続けたいと思ってもらえるような素地を、保育所のうちから築きたい」。岩見仁美所長(57)は、園児神楽に取り組む狙いを熱っぽく語る。

 長女多喜ちゃん(6つ)を通わせる、同町大朝の主婦石井ゆうこさん(34)は「嫁いで地元を離れても、自分が生まれた地域の文化に触れて体で知っておくことが重要」と感じる。さらに、「人前に立って演じれば度胸もつき、良い経験になるはず」と期待を込める。

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 現在、同町の大塚神楽団で主役級の役を演じる千代田高二年井上隆太さん(16)は卒園生の一人。「鬼をやっつける神役にあこがれていた。役に決まった時、とてもうれしかったのを思い出す」と記憶をたどる。

 高校進学時、広島市内の高校で野球をする夢もあった。「大人と交じって活動していれば、礼儀など神楽以外に学ぶことが多い。先人の舞に追い付き、追い越し、みんなに喜んでもらいたい」。地元に残り、神楽に打ち込む道を選んだ。

 神楽と両立できる仕事に就こうと、昨年十二月から近くの工務店で大工のアルバイトを始めた。「必死に練習するし、よく研究もする。大塚神楽団、大塚地域を引っ張っていく人になってほしい」。小田頼信団長(41)もエールを送る。

 「郷土を愛し、郷土に夢と、希望と、誇りがもてるような子どもを育てる」。植え付けが終わった田んぼに囲まれた新庄保育所。掲げる保育の基本方針が、実を結びつつある。

=第三部おわり


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