2005.9.27
4. ホテル舞台 客層を開拓

ディナーショーに注目

 「神楽会場独特のざわめきがなく、熱い視線を感じた」。北広島町石井谷で活動する東山神楽団の山根秀紀副団長(33)は汗をぬぐい、言葉を継いだ。「最高の舞台で上演できて光栄。いつもと客層が違い、緊張したが、やりがいはあった」

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迫力ある舞台に、円卓から拍手を送るディナーショーの観客(広島市南区)

 広島市南区の広島プリンスホテルが、二十四日に初めて開いた神楽のディナーショー。一人一万五千円(昼の部は九千円)。スーツやアクセサリーで着飾った約二百人が大宴会場を埋め、円卓でグラスを傾けながら、ヒラメのつくりなど、旬の食材を使った日本料理に舌鼓を打った。食後のコーヒーとほぼ同時に笛の音色が響き、舞台は開いた。

 この日の演目は、同神楽団が得意とする「土蜘蛛(ぐも)」と、山王神楽団(北広島町)の「八岐大蛇(やまたのおろち)」。東広島市の主婦佐々木静子さん(84)は「ゆったり落ち着いた雰囲気が心地よい。今日はおしゃれをして、神楽を楽しめた」。上演後、緑色の大蛇と記念撮影し、満面の笑みを浮かべた。

 県内で最も早く神楽のディナーショーを開いたホテルは、中区のリーガロイヤルホテル広島だった。真田琢也営業企画課長(41)は「『和』の人気が高まっていた。ホテルと神楽、フランス料理と日本の伝統芸能という異質な組み合わせが面白いと思った」と振り返る。

 数々の神楽大会で優勝経験を持つ安芸高田市美土里町の横田神楽団を招き二〇〇〇年、集客策の一環で始め、これまでに三回企画した。「あまりホテルを利用されなかった方々に、来館してもらうきっかけになった。親しみを持ってもらえるだけでも成功」とみる。

 中区の広島全日空ホテルなども開催を検討している。県が昨秋、観光キャンペーンで神楽を取り上げたのを機に人気が高まり、スーパーでも集客のために招く動きが活発だ。十五万円前後の出演料で長時間楽しんでもらえる神楽は、数百万円から一千万円以上かかる全国区の芸能人を呼ぶより興行的なメリットがある、との見方もある。

 プリンスホテルの倉重立郎支配人(56)は、東京出身。赤坂を中心に新宿や六本木の系列ホテルに勤めてきた。その経験から「内容や伝統からみて神楽は歌舞伎や能と並ぶ芸能だ。現状のままではもったいない」と、神楽の地位向上を強調、ディナーショーを「神楽のビジネスモデルを構築する実験」と位置付ける。

 「イベントの幕あいや余興で上演している神楽から進化するには、神楽団の努力に加え、ふさわしい舞台とビジネスの支えが必要」。東京発ではない、「地元に根差したオンリーワン」の地域資源として、神楽の全国発信をうかがう。


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