2005.10.15
3. 石見、ひろしまに学ぶ

華やか演出 人気上昇

 江戸時代末期に、島根県から伝わったとされる「ひろしま神楽」。源流とされる石見神楽が今、新たな展開を見せている。ひろしま神楽から学ぼうとする動きだ。

 「ドゴドゴドゴドゴ―」。間断なく刻まれる石見神楽独特のはやしに乗って、ドライアイスの中から亡霊が登場する。なぎなたで切られると顔の一部が白骨に。面の着け替えや派手な衣装への早変わりなど、巧みな演出が繰り広げられる。

 浜田市の後野神楽社中が昨年四月に発表した創作演目「鏡山」。団員の江坂寿満さん(49)は「広島を意識していないと言えばうそになる。ドライアイスや幕の使い方など学ぶ点は多い」と明かす。島根県の社中で初挑戦した面の三枚重ねや部分重ねなど、ひろしま神楽の演出を参考にしたという。

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 広島県では戦後、演劇性を高めた新舞が誕生し、体育館やホールなどで上演される機会が増えた。これに対し、島根県では神社に奉納する「宮神楽」が中心だ。団員の勝田知宏さん(31)も「広島は、幕から手や足が見えず、舞手と裏方の連携が万全」。広島流の「魅せる」神楽の完成度の高さに感心する。

 鏡山は、浜田藩江戸屋敷で起きたと伝わる、女性の「お初」によるあだ討ち事件が題材となっている。勝田さんと団員の松谷みゆきさん(42)が二〇〇三年、歌舞伎で演じられている史話を郷土の神楽で紹介したいと、台本の草案を作った。

 登場人物は女性ばかり四人。男性が大半の神楽では異色だ。松谷さんは「登場人物それぞれが筋を通した人生を送っていて、石見の女性ならどの立場にも共感できる」と強調する。伝統を重んじる関係者から一部、批判も出たが、虫谷昭則代表(58)は「反響は良い方に解釈している。神楽の活性化にインパクトを与えられた」と胸を張る。

 人気は広まった。九日に島根県吉賀町の大岡神社であった祭りも、住民の要望が強く、同社中が招かれた。主催する広石交友会の近藤彰彦会長(58)は「時代にマッチした神楽には、元気をもらえる」と賛辞を贈る。

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 広島から島根まで見に行く熱烈な神楽ファンも増えてきた。今年だけで広島県内の三会場で上演し、虫谷代表は「広島からわざわざ見に来て、声援や激励をしてもらえ、大きな支えになっている」と喜ぶ。

 広島で一九九二年に生まれたスーパー神楽の競演大会も四月、益田市で開かれた。大会の藤原澄男実行委員長(72)は「最近、石見でもひろしま神楽のファンが出てきた。マンネリよりも変化を求めた」。来年四月にも大会を計画する。

 はやしや所作など、広島と島根の神楽にはそれぞれ特徴がある。神楽団の交流が深まることは、新しい流れにつながる可能性を秘める。


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