感動共有 信頼を構築
「政府間はぎくしゃくしているが、市民レベルで感動を共有する体験が親善に役立つ。特に若者の交流は欠かせない」。広島市中区の県日中親善協会の田渕広和理事事務局長(73)は、九月末に北広島町川小田の加計高芸北分校が中国を訪れた意義を強調した。
被爆六十年の今年は、中国にとって抗日戦争終結の節目でもある。靖国神社問題などが重なり、四月には北京で大規模な反日デモも起きた。「だからこそ民間が築いてきた友情や信頼関係の真価が問われる」。田渕さんはそう指摘する。
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両校の交流は、県と四川省の友好提携などが契機となった。芸北分校は一九九五年から、修学旅行で同省・成都市の第二十中学校を訪れている。九八年には両校で友好交流の協定を結んだ。両国の教育・文化を相互理解するため芸能交歓する―などの合意に基づき、二年生がほぼ毎年、中国で郷土芸能の神楽を披露する。
神楽上演は今年で八回目となった。神楽の演目の一部には、天皇の力を強調し過ぎた場面や、外国を敵と見なしたような表現も含まれるため、誤解が生じないように、口上などを配慮してきた。
「広島では定番の演目である八岐大蛇(やまたのおろち)は、まずかったようです」。淀渕一思分校長(58)は、苦笑いする。中国では神として信仰する人が多い竜を退治されては困る、との理由だった。以後、八岐大蛇は避け、別の演目でも、事前にファクスで内容を知らせるようにしている。
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今回の舞台でも、岡本良太君(17)が上演前に神楽の意味を英語で紹介した。「日本の農村には祖先を神として信仰する習慣があり、神に収穫を感謝して舞うのが神楽です」。中国の生徒約三十人は恐ろしい形相の鬼が登場した瞬間、息をのみ、舞い終わると大きな拍手がわいたという。
手打ちがねの今田雄太君(16)は「鬼の迫力やはやしのリズムなど、神楽を良い面からとらえてもらえた」。裏方の河野良美さん(16)も「アニメの話題で盛り上がれる同世代の仲間。心を込めて伝えれば、国境を超えて理解し合えると分かった」と受け止める。
指導した地元の雄鹿原下組神楽団の上新博則前団長(51)は「古里の良さに気付いてほしいと願って教えてきた。堂々と海外公演してきてくれ、心強い」と目を細める。
郷土芸能の神楽が外国でどこまで通じるか正面から試し、問題があれば改善策を考える。「この姿勢こそが、目指すべき国際人の姿であり、古里への愛情や自信を深めることにつながる」。淀渕分校長は信じる。
互いの文化を尊重し合う試みは十一年目を迎えた。真の意味での国際交流を模索する神楽を通じた若い芽が、着実に育っている。
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