2005.10.28
4.画家  川口健治さん(67)

絵になる世界 魂継承を

Photo
「神楽の非現実的な世界が興味深い。もっとアピールしてほしい」と期待する川口さん

 ―なぜ神楽の絵を描き始めたのですか。

 時代とともに失われていく古里の面影を描き留めたいと、民家や史跡、風景などを描いていた。題材を探していた時、たまたま太鼓の音に誘われて山口県本郷村の神社で見たのが同県の無形民俗文化財、山代本谷(やましろほんだに)神楽だった。スピード感があり夢中で見た。従来描いてきた民家など「静」とは正反対である神楽という「動」のモチーフで、さまざまな神楽があると知り、興味がわいた。

 ―絵の題材として、どんな魅力がありますか。

 神社を舞台に、かがり火や霧など独特の世界を描ける。暗くてはっきり見えないのだが、チカチカッと衣装が光る瞬間がある。ドライアイスや大蛇がはき出す煙なども部分的に残り、暗闇に奥深さを感じる。絵として訴える強さや、えも言われぬ幻想空間がある。

 見えを切る静止した状態や舞い始める一瞬、激しく回転する場面など、躍動感を表現できるシーンは多い。おどろおどろしい鬼の動きや、優しい姫の表情なども面白みがある。とにかく写真を撮りまくり、アトリエで仕上げる。約二十年間で、百点以上の作品を描いた。

■伝統美 海外で評価

 ―神楽絵でパリ国際展でのグランプリや最優秀イタリア文化賞を受賞されました。海外で評価が高いのはなぜでしょう。

 衣装や小道具の色使いや形など、海外にはない珍しさがあるのだろう。浮世絵を見るような感覚に近いが、能や歌舞伎ほど研ぎすまされてはいなく、土俗的な美しさもある。農作業の姿が所作に表れ、日本人らしさを感じてもらったのかもしれない。

 ―神楽の現状をどうみますか。

 派手すぎる演出は人工的な脚色をまねして描くようで、作家としての気持ちが入りづらい。戦後生まれの新舞が普及し、のろいや恨みなどテーマは分かりやすくなった側面はある。しかし、絵でもそうだが、元気で面白いだけでは、取り繕った軽薄な印象が否めない。神楽の意味や意義など、精神面を世代間でしっかり継承してほしい。

■魅力発信 積極的に

 ―「ひろしま神楽」に何を期待しますか。

 神楽の絵は、本場である広島県では感動してもらえるのだが、隣の山口県などでは反応が鈍い。昔は、誰もが神楽に慣れ親しんでいたはずだが、今は知らない人が多い。作品作りでも、舞台を見に出掛ければ絶対、良い場面に遭遇するが、神社の祭りがいつ、どこであるのか情報が少なく、機会を逸している。積極的な巡業や情報発信を通じて、神楽をアピールしてもらえるとうれしい。


柳井市在住。中学、高校の美術教諭を経て、1985年から岩国短大教授。2000年に神楽を題材にした作品集「神々の舞」を出版した。安芸高田市の神楽門前湯治村にギャラリーがある。

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