|
<1> ドイツの脱原発 全廃へ多難な道 (3)
 |
環境省・電力業界の思惑 |
原発の廃止について歴史的な合意に達したドイツ政府と電力業界。だが、合意に至る思いや脱原子力をどう具体化していくかなど、互いの考え方には今も大きな隔たりがある。脱原子力を推進する環境省と、電気事業者など約一千社で組織するドイツ電力産業連合会(VDEW)のエネルギー政策担当者に聞いた。 |
ドイツ環境省気候変動プログラム担当 ダーク・バインライヒ博士 |
■ 安全・経済性考え選択 ■ |
―政府はなぜ脱原子力に踏み切ったのですか。
一九九八年に現政権が誕生し、まず経済性で問題が起きたからだ。電力市場の自由化で、供給過剰に陥った。そこで電力の三分の一を占める原子力を減らし、徐々に代替エネルギーへ移行できないか、という政策につながったわけだ。
政治的にはご存じのように、七〇年代半ばから使用済み燃料の輸送に対する反対運動が高まっていた。そこに八六年にチェルノブイリ原発の事故が発生した。それで原発の安全性について、緑の党だけでなく社会民主党も非常に問題があると考えるようになった。
―使用済み燃料には厳しい姿勢ですね。
政府から見て、使用済み燃料の最終処分をどこに決めるかなど、廃棄物の処理問題がいまだ未解決ということが大きい。そうしたバックエンドに国民が不安を抱えたままでは、原子力は進められない。
―では、バックエンド問題が片付けば、脱原子力でなくてもいいと。
理論的にはそうだが、現実に電力会社も国民の反対を抱えた中では原発をつくりたがっていない。政府も今はエネルギーの過渡期に当たっていて、再生可能エネルギーの時代に入るとみた。
―でも、電力の三分の一を代替できるエネルギーはありますか。
安い化石燃料を使えば現状でも代替は可能だ。ただ、CO2排出量を増やさないためには石炭でなく、天然ガスがいいだろう。完全な脱原子力まで二十年あるから、その間に技術開発を進め、できるだけ再生可能エネルギーに切り替えないといけない。まずは風力発電で、太陽光、バイオマス、水素の燃料電池もある。熱電併給(コージェネレーション)の効率を高める必要もある。
―風力発電は安定性に欠け、料金も原子力より割高になるのでは。
風車を無限に作ろうとは思わないが、沿岸部などではまだ、発電の余地がたくさんある。電力の節約も進めないといけない。クリスマスでこんなにも照明が必要だろうか。もっと考え直す必要がある。それに原子力は国がいろいろ補助していたから安かっただけ。環境省としては、国の保護なしには、あまり経済性はないとみている。
―今振り返って、電力業界との合意をどう評価しますか。
政府内にはいまだに即時廃止を唱える人も多いが、この方式でよかったのではないか。個人的には電力側がうまい取引をしたと思う。政府は今後二十年、原子力に邪魔しないと約束したわけで、将来、政権が変わる可能性も残されているから。
VDEWエネルギー政策・経済部長 ハイノ・ラース氏 |
■ 競争力低下 先行き心配 ■
|
―電力業界はなぜ政府と合意したのですか。
合意というより、合意するよう追い込まれたというのが実情。トリッティン環境相をはじめ政府はこれまで、われわれの原子力発電について燃料輸送などに許可を出さないなど邪魔をしてきた。輸送できなければ発電所の運転はできない。
シュレーダー政権はアフガニスタンへも兵力を送ったように、現実主義へ転換しているが、ただ一つ脱原子力だけは固執している。合意は決して、われわれから望んだわけではない。
―政府による介入が問題だったわけですね。
その通り。運転を止めるようなことばかりで、金も浪費した。ただ一つだけ合意してよかったのは今後、政府がこれまでのような邪魔をしなくなるということ。安心して操業できる。
―でも、これからは原発を段階的に閉鎖していかなければいけません。
電力業界は供給責任があるから、最低でも二千万キロワット以上の代替に取り組まないといけない。将来の需要の伸びも考えたら三千万から四千万キロワット程度が必要だろう。これからどういう発電所に投資すればいいのか、とても頭を痛めている。
たちまち原子力に代わる電源としては石炭や天然ガスだろう。ただ、天然ガスはロシアからの輸入に頼ることになるし、石油価格の影響で価格の高騰にも悩まされるようになる。
―政府も批准した京都議定書のCO2削減目標は達成できますか。
目標の二〇一〇年までに廃止されるのはオブリッヒハイム原発ぐらいだけだから、その時点では大丈夫だろう。でも、それから後が大問題になる。長期的に考えれば、CO2の削減はできない。
CO2削減で考えると投資は風力発電に傾くが、欧州全体でも〇七年にすべての電力市場が自由化される中、それで競争力が保てるか厳しい。だから脱原子力について国民も少し考え直し始めている。二〇二〇年ごろに環境が守れないことが分かれば、きっと国民は考えを変えるはずだ。
―使用済み燃料の最終処分場も決める必要があるのでは。
われわれは必要だと思っているのに緑の党の反対で研究が三年から十年も凍結されており残念だ。それでも合意したのは、とにかく前に進まないといけないからだ。
―合意について今、あらためてどう評価しますか。
まずは成功だろう。とにかく長期政策がなければ、長い建設期間がかかる発電所への投資などできない。エネルギーの確保は政権のサポートなしには進まないからだ。
|
|
 |
「国民がバックエンドに不安を抱えたままでは、原子力は進められない」と語るバインライヒ博士 |
 |
「CO2削減が進まないことが分かれば、国民も原子力への考えを変えるはずだ」と語るラース氏 |
|