<1> ドイツの脱原発 全廃へ多難な道 (4)
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欧米各国の政策 |
米国で一九四二年十二月、世界初の原子炉が臨界状態に達して六十年。世界の原子力発電は二〇〇一年十二月末現在、三十一カ国・地域で四百三十二基に上る。米国は百三基、欧州は十六カ国で百七十基、日本は五十二基と、日米欧で世界の四分の三を占める。だが、原発先進地・欧米の原子力政策は今、住民の反対運動やエネルギー安全保障など、さまざまな要素が複雑にからみ合い、推進、廃止、現状維持―などに分かれている。 |
スリーマイルアイランド事故後、原発建設を凍結していた米国はブッシュ大統領の登場で再び推進へ方向転換した。二〇〇一年五月に発表した「国家エネルギー政策」で原子力発電の拡大を掲げ、エネルギー省も昨年二月、二〇一〇年までに最低一基の建設計画に着手。既に大手電力三社が名乗りを上げている。
背景には、不安定な中東情勢をにらんだエネルギー安全保障の強化がある。また、九〇年代以降のトラブル減少で原発の稼働率が上がり、発電コストも低下。収益性が高まった原発の売買ビジネスも盛んだ。
北欧のフィンランドは〇二年五月に国会で五基目の新設を決め、原子炉メーカーの入札を実施中だ。情報技術(IT)化で経済成長が著しく、電力の一部は輸入に頼っている。地球温暖化防止やロシアに依存したエネルギー構造の転換を図る。
米国、フィンランドに共通するのが、世界に先駆けた使用済み燃料の最終処分場の決定だ。米国はネバダ州ヤッカマウンテン、フィンランドは南西部のオルキルオト。廃棄物処理というバックエンドの不安解消が、政策転換のかぎともなったようだ。
原発を十基以上持つのは世界十一カ国。その中で、ドイツと並んでスウェーデンも一九八〇年の国民投票で十一基を全廃する方針を決めた。政府の命令で九九年十一月、バーセベック1号機を閉鎖した。ただし、続く2号機について政府は、昨年七月の閉鎖期限を撤回した。電力不足に陥る可能性があるためで、ドイツをまねた新政策も模索している。
七基が運転中のベルギーではこの十二月、下院が運転四十年を迎えた原発から廃止する法案を可決した。総発電電力量のうち原子力のシェアが六割に達するため、電力供給に支障があれば運転は継続する。
リトアニアは、発電電力量の七割を賄う旧ソ連製の原子炉二基の安全性に問題があるとして、EU加盟の条件として廃止を求められた。二基とも閉鎖の予定だ。
米国に次ぐ五十七基が稼働するフランスは現状維持だ。運転年数が平均十四年と新しいうえ、原子力シェアも76%と高く、向こう十―十五年は新設計画がない。
ただ、原子力産業の動きは活発。政府が業界再編を進め、原子炉の設計から使用済み燃料の再処理まで一貫して扱う世界最大のアレバ社を誕生させた。中国などアジア市場に攻勢をかける。
商業用原子力発電では欧州の先陣を切った英国。三十三基の大半が古いタイプのガス炉で、現在は老朽化した原子炉を順次閉鎖中だ。政府は今後、代替の原子炉を建設するかどうか新政策を立案中だ。
五基を持つスイスは、国や州の住民投票で現状維持を選択した。ミューレベルク原発の閉鎖を問う二〇〇〇年九月のベルン州の住民投票では、三分の二が反対した。原子力発電などに新税を課す一方、再生可能エネルギーなどには補助を出す政府提案も、同月の国民投票で否決された。
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