<3> フィンランドの新設計画
2003/01/19
雇用と税収期待 2自治体立候補 |
■ 5基目、2010年稼働へ ■ |
フィンランドは昨年5月、5基目の原子力発電所の建設を決めた。2010年に稼働する予定だ。電力の15%を隣国からの輸入に頼る北欧の小国。スウェーデンの原発廃止政策が進めば、たちまち電力不足に陥る可能性があるためだ。地球温暖化を招く二酸化炭素(CO2)排出量を抑制する狙いもある。世界で初めて使用済み燃料の最終処分場建設が決まるという、地元自治体の受け入れ環境のよさも背景にある。(編集委員・宮田俊範、写真も)
《フィンランドの原子力発電所》
発電所 |
出力
(万キロワット) |
炉型 |
運転開始
(年) |
所有企業 |
ロビーサ 1号
2号 |
51
51 |
PWR
PWR |
1977
1981 |
フォータム |
オルキルオト1号
2号 |
87
87 |
BWR
BWR |
1979
1982 |
TVO |
フィンランドの古都トゥルク市の北約百キロのボスニア湾に浮かぶオルキルオト島。狭い海峡が埋め立てられ、半島のように陸地とつながっているこの島で今、次の原発の新設への期待が高まっている。
国内第二の電力会社テオリスーデン・ボイマ社(TVO)が運転するオルキルオト原発1、2号機が稼働し、約五百人が働く。漁業、農業の従事者が多い地元のユーラヨキ自治体(人口六千人)では最大の雇用の場となっている。
そのTVOが国内五基目となる原発の新設計画を国に申請したのは、二〇〇〇年十一月だった。四カ月後の二〇〇一年三月、早速ユーラヨキ自治体と、もう一つの立地地域であるロビーサ原発の地元、ロビーサ自治体が相次いで受け入れを表明した。
ユーラヨキ自治体は「新たな雇用が生まれ、税収も伸びる」と計算する。新規雇用は百五十―二百人、点検・修理など関連産業の雇用も千人近くが見込まれ、固定資産税も年間三億一千万円増えると見込む。
フィンランドの原発はオルキルオトとロビーサの二カ所。昨年五月に国会が承認したTVOの新設計画では、五基目はこの二カ所のいずれかで増設する。二〇〇五年着工、二〇一〇年運転開始の予定。立地点は今年十二月までにどちらかに決定される。
場所は原子炉の炉型の選択によって決まるとみられている。沸騰水型ならオルキルオト、加圧水型ならロビーサとなり、それぞれ3号機として建設されることになる。
TVOのマウノ・パーボラ社長は「まだどちらに立地するとも言えないが、それぞれの住民に積極的に受け入れてもらえ、手続きがスムーズに運んだ」と喜ぶ。
TVOは昨年九月から原子炉の国際入札を開始。欧州では現在、ほかに原子炉の入札はなく、原子炉メーカーは落札を目指してしのぎを削る。候補は米国製の改良沸騰水型やフランスとドイツが共同開発した欧州加圧水型など最新鋭の六タイプあり、出力は百―百六十万キロワット。運転期間も建設当初の設定としては世界初の六十年を見込む。
パーボラ社長は「五基目は世界最高の安全性と経済性を兼ね備えた発電所になる」と強調する。
国内総生産額が約十五兆円のフィンランド経済にとって、二千百―三千百億円が見込まれる原発の投資効果は大きい。政府は建設、商業、サービスなど直接、間接的な波及効果を合わせて二万人以上の雇用に匹敵すると試算。「景気浮揚や9%台の失業率改善など、効果は広い範囲に及ぶ」とみている。
▽電力輸入 先細りを懸念 最終処分場も決まる
スウェーデンやドイツなど欧州で脱原子力の流れが強まる中で、原子力推進を選択したフィンランド政府。五基目の建設を決めたのは、今後電力需要の順調な伸びが予想される一方、頼みの電力輸入が先細りする恐れが出てきたためだ。
北欧諸国とロシアは電力の相互融通体制を敷いている。フィンランドも隣国に電力を供給する一方、発電余力のない地域では供給を受けている。差し引きでみると二〇〇〇年の場合、電力消費量七百九十一億キロワット時の15%は、スウェーデン、ロシア、ノルウェーの三カ国から輸入して賄った。
電力消費は十年前と比べ25%も増加している。携帯電話メーカーのノキア社など情報技術(IT)産業の発展で一九九六―二〇〇〇年の経済成長率は年平均5.1%と欧州トップクラス。九五年から続く中道左派連合のリッポネン政権は「電力消費の伸びに発電が追い付かない状態が続いている」と説明する。
ところが、最大の輸入先のスウェーデンは電力の余裕に乏しく、フィンランドに輸出する一方、ノルウェーから輸入して供給バランスを取っている状態である。
しかも、原発全廃政策によって九九年にバーセベック原発の1号機を廃止し、2号機の廃止も検討中。将来、自国の電力も不足する恐れがある。リッポネン政権には「将来はスウェーデンからの輸入は不可能になる」との危機感が強い。
フィンランドの総発電電力量は輸入の15%を除くと、原子力が27%、水力が16%、木質系が11%、天然ガスが10%などとなっている。
このうち、天然ガスはロシアに全量を頼っており、まだ原料の輸入は可能だ。しかし、電力輸入に加え、これ以上、ロシアに電力供給を依存したくないとの思惑も働き、原発の新設へと傾いていった。
実は、五基目の建設計画の動きは一九九三年までさかのぼる。この時、中央党を中心とした中道右派連合のアホ政権が新設計画を原則決定したものの、一院制の国会で賛成九十、反対百七で否決され、とん挫した。
今回は賛成百七、反対九十二で承認。当時と違って八六年のチェルノブイリ事故の記憶が薄れたうえ、過去十年の稼働率が世界最高の91%と「世界一安全な原発」に対する国民の信頼が厚い。
九七年の京都議定書の策定以降、政府はCO2削減問題をエネルギー政策の中心に据えていることもあって、原発建設に有利に働いたという。
さらに重要なポイントとなったのが、原発から出る使用済み燃料を地中深く埋める高レベル放射性廃棄物の最終処分場が、オルキルオト島に決まったことだ。
最終処分場は原発以上に地元の反対が見込まれ、立地見通しが立たない国が多いのが実情。ところがフィンランドでは、ユーラヨキ自治体の誘致を受けて国会が二〇〇一年五月、世界で初めて最終処分場の建設を承認した。二〇一〇年から建設に着手し、二〇二〇年操業開始予定だ。
フィンランドエネルギー産業連盟は二〇〇〇年にまとめたリポートで、二〇一五年の電力消費量がさらに二割以上増加すると予測。増加分を自給するには、五基目を含め新たに原発三基分の三百八十万キロワットの発電設備が必要になる、との見通しを示している。やがて六基目の計画も浮上する可能性がある。
 |
貿易産業省エネルギー局副局長
ユッシ・マンニネン氏
「原発の新設にあたって安全性はほとんど議論にならなかった」と語るマンニネン氏
|
|
 |
 |
■ CO2削減・低コスト魅力 ■ |
フィンランド政府の原発政策立案の責任者、貿易産業省エネルギー局副局長のユッシ・マンニネン氏に原子力推進政策の狙いについて聞いた。
―欧州では脱原子力を目指す国が増えています。なぜ推進ですか。
わが国のエネルギー政策は、地球温暖化防止に向けた京都議定書を中心に据えている。二〇一〇年にCO2排出量は一九九〇年レベルに抑えること、つまり伸び率ゼロを目指さなければならない。
だが、これは非常に難しい目標だ。水力は環境保護のためこれ以上の開発は難しく、製紙、パルプ産業から出るチップを活用したコージェネレーション(熱電併給)も既に多くを利用済み。もちろん石炭や石油は増やせない。おのずと選択肢は限られる。
―原子力しか選択の余地がなかったのですか。
六人の閣僚と役所の事務方のワーキンググループが二〇〇一年三月にエネルギーの国家戦略を策定した際、選択肢は二つあった。一つは天然ガスだけを大幅に増やすこと。もう一つは天然ガスに加え、原発を一基つくることだった。
一九九〇年代前半は不況に苦しんだため、政府は経済成長と失業率改善を最優先課題に掲げている。この要素を重視した複雑なコンピューターモデルをつくってシミュレーションしたら、結論は原子力しかない、ということになった。
―具体的にはどういう理由だったのですか。
天然ガスは発電所が短期間に建設でき、柔軟性が高い長所がある。原子力でない、というだけで賛成の人もいる。だが、欧州各国も天然ガスを増やすため、価格は必ず高騰する。それに比べて原子力は低コストで、長期的にも安定している。こうした長所、短所を比較しながら決断した。
―安全性は問題にならなかったのですか。
ほとんど議論の対象にならなかった。世界でもトップクラスの安全運転を記録してきたからだ。世論調査でも国民は安全性を問題にしていない。
―スウェーデンの原発廃止政策の影響は。
コンピューターモデルでは将来、スウェーデンからの電力輸入は不可能になると予測した。だからといってロシアからの輸入もせいぜい今の10%までが限界だろう。一国に頼りすぎると、エネルギー安全保障上の問題も大きくなるからだ。
―隣国の原発廃止がめぐりめぐってフィンランドの推進につながったわけですね。
結果的にそうなるだろう。ただし、スウェーデンやドイツで計画通りに廃止するのは意外に難しいとみている。特にスウェーデンは原子力比率が50%もあり、代替エネルギーの問題が大きい。京都議定書の目標達成も無理になるだろうから。
|
|
 |
国内5基目の原発の候補地の一つ、オルキルオト原発。立地が決まれば1号機(左)の左側に3号機として建設される(ユーラヨキ自治体)
|


|
 |
《フィンランドの原発建設手続き》
電力会社は環境影響評価書を作成した後、貿易産業省に計画を申請。放射線・原子力安全局(STUK)が事前評価し、候補地の自治体に意見提出を求める。自治体には拒否権がある。現地で公開ヒアリングが開かれ、自治体が賛成なら、内閣は原則決定(有効期間五年)し、国会がそれを承認する。電力会社はその後、政府に建築・運転の許可を申請し、着工・運転開始となる。
|
|
|