欧米からの報告 原子力を問う
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<6> 先駆者・英国の選択
2003/02/09
採算合わぬ旧型、相次いで廃止へ
■ 自由化が追い打ち ■

 1956年に世界で初めて商業用の原子力発電を始めた英国で、原発の廃止が相次いでいる。50、60年代に稼働を始めた小型の原発が多数を占め、電力自由化による電力価格の下落で採算が悪化したためだ。世界第1号のコールダーホール原発も今年3月に全面廃止される。原子力の発電比率は現在の22%から2020年には5%へと低下する見込み。反原発を掲げて1997年に発足した労働党のブレア政権は、原発の新設を盛り込んだ新エネルギー政策への転換を検討している。(編集委員・宮田俊範、写真も)
 
《BNFLの原発廃止計画》
発電所 基数 出力
(1基当たり、万キロワット)
運転開始
廃止予定
コールダーホール 6.0 1956―59年 2003年3月
チャペルクロス 6.0 1959―60年 2005年3月
ブラッドウェル 12.9 1962年 ※2002年3月
ヒンクリーポイントA 32.1 1965年 ※2000年5月
ダンジネスA 28.5 1965年 2006年
サイズウェルA 25.0 1966年 2006年
オールドベリー 23.0 1968年 2013年
 ウィルファ 56.5 1971―72年 2016―21年
(※は廃止済み)
 コールダーホール原発は英国原子燃料会社(BNFL)のセラフィールド工場の一角で、五六年十月に発電を開始。営業運転四十七年目に入っている。

 燃料には天然ウラン、冷却材に炭酸ガスを用いるガス冷却炉。濃縮加工したウランや水を使う一般の軽水炉とは異なる純英国産である。六六年に日本で初めて商業用発電を始めた東海原発のモデルにもなった。

 世界の先駆的原発とはいえ、いずれも出力は六万キロワットと小さい。最近は百三十万キロワットを超える規模が標準とあって、経済性の低さは覆いがたくなっていた。

 政府との原子力政策の協議を担当するエイドリアン・ブル・テクノロジー部長は「残念だが、コールダーホールのような古いタイプの原発は停止せざるを得ない。発電事業が赤字に陥っているから」と説明する。

 さらに九〇年から始まった電力自由化が、赤字に拍車をかけた。

 ノーマン・アスキュー最高経営責任者(CEO)は「電力価格が著しく下落し、もはやこれ以上の運転継続を正当化できない」として二〇〇〇年五月、当時稼働していた原発二十基について、運転期間三十五―五十年で運転停止する計画を決定。既にヒンクリーポイントA原発とブラッドウェル原発の計四基を廃止している。

 ただ、運転停止後、廃炉にするための費用は巨額だ。昨年三月末現在の試算によると、解体や廃棄物の処理などの費用負担は八兆円と見込まれ、経営の圧迫要因となっている。

 このため政府は、セラフィールド工場などの資産所有をBNFLから切り離し、債務を引き受ける債務管理機関(LMA)を二〇〇四年に設立する計画を打ち出している。いずれ日本でもスケジュールに上る廃炉対策。それが商業ベースでは難しいという実態をうかがわせている。

 セラフィールド工場は発電のほか、使用済み燃料の再処理を手がける。さらに再処理して取り出したプルトニウムとウランを混ぜて原子炉で燃やすウランプルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の製造も大きな事業だ。関連する従業員は約一万人。そのうち原発では約四百人が働いているという。

 BNFLは、発電事業からの撤退は決まっているものの、一方で新戦略にも乗り出す。その目玉が新たに原子炉メーカーを加えた原子力企業としての世界展開である。

 既に九九年、世界の原子炉の半分のシェアを占める加圧水型原子炉メーカー、米ウェスチングハウス社の原子力事業部門を買収している。二〇〇〇年にはスイスに本社を置く多国籍企業、アセア・ブラウン・ボベリ社(ABB)の原子力事業部門も手に入れた。

 英国で現在稼働中の原発は三十一基。BNFLの十六基のほか、民間のブリティッシュ・エナジー社(BE)が十五基所有する。英国では従来は原発はすべて国営だったが、電力民営化の推進で九五年に移管。BEが持つのは、ガス冷却炉より新しい七〇年代後半以降に運転開始した改良型ガス冷却炉と最新の加圧水型軽水炉だ。

 英国では九五年のサイズウェルB原発以来、新設が途絶えているが、BNFLは、ブレア政権の新政策に伴う新たな原発需要に期待するとともに、世界に向けて売り込む構えだ。

 ブル・テクノロジー部長は「米国では、既に原発新設を決めた。われわれも英国政府に対して同じように新設が可能な政策への転換を求めている」と強調する。

 ただ、そのBEも電力自由化のあおりで発電コストと電力販売価格の逆ざやを抱える。昨年夏からは経営危機に陥り、政府が緊急融資などの支援に乗り出しているだけに、新政策が出ても新設計画を打ち出すのは困難とみられている。

 
 ▼新設容認に政策転換 反対運動も強く不透明

graf ブレア政権が検討している新政策は、原発の発電比率の低下に伴うエネルギーの安定確保と、地球温暖化対策が契機となっている。ただ原発反対運動も根強いうえ、経済性の問題もクリアする必要があり、先行きは不透明といえる。

 労働党は当初、基本姿勢は原発反対だが、運転の現状は追認してきた。ただ九五年以降、新設の動きもなかったため、賛否を問う政策論議には至っていなかった。

 二期目に入る二〇〇一年六月の総選挙では政策綱領に「石炭と原子力は英国の電源の多様化に役立っている」と盛り込み、事実上原発を容認する姿勢に変った。

 新エネルギー政策は二期目に入ると同時に検討作業を開始。内閣府の行政革新局が昨年二月に作成した「エネルギーレビュー」は、そのたたき台となる報告書だ。

 報告書は原子力について(1)二酸化炭素ゼロの電源として明確に位置付ける(2)新型炉開発へ参加し、技術力も向上させる(3)原発の新規立地ではスムーズに運転開始できる措置を講じる―などとし、新政策に原発新設の選択肢を盛り込むよう求めている。

 京都議定書で英国が求められているのは、二〇一〇年の二酸化炭素(CO2)排出量を一九九〇年比で12.5%削減すること。このためブレア首相は報告書の冒頭で「これからは気候変動への対応がエネルギー政策の中核になる」とうたう。

 だが、老朽原発の廃止によって、二〇二〇年前後で最大九百万キロワットもの代替電源が必要な見通しだ。原発が新設できなければ、主要代替燃料は天然ガスを充てるしかなく、その分CO2の増加が懸念されている。

 ウィルソン・エネルギー担当相も「原発への新規投資は今後、再生可能エネルギーの拡大と等しい選択肢として扱う必要がある」と言明する。

 貿易産業省も政策見直しに着手して間もない二〇〇一年八月、新設に向けた地ならしとして原発の新規立地に関する報告書をまとめている。

 その中で、原発の経済性について、「技術開発が進み、高い稼働率が維持されれば、原発は一キロワット時当たり四・五円以下で発電が可能」と、コスト競争力回復へのめどに触れている。

 ただ、新政策が打ち出されれば、反対運動が表面化する見通しもある。セラフィールド工場では五七年、プルトニウム生産のためのウィンズケール原子炉が火災を起こしている。その後の米国のスリマーマイルアイランド事故や旧ソ連のチェルノブイリ事故などもあって、安全性を問う声は少なくない。


 
BNFL原子力電気事業グループ最高責任者 
チャーリー・プライヤー氏


「発電事業からは撤退するが、原子力にかかわるすべてのサービス事業の展開は強化する」と話す、プライヤー氏
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 ■ 廃棄物の処分策も必要 ■
 
  BNFL原子力電気事業グループ最高責任者のチャーリー・プライヤー氏(前ウェスチングハウス社長)に、ブレア政権の新政策の見通しや事業展開などを聞いた。

 新政策は原発推進を明確に打ち出せますか。

 まだ政策を見直している段階だが、これまで分かっていることで言えば、原子力に対してプラスの方向で考えている。電力供給の安定性があるし、地球温暖化防止にも役立つからだ。政府は最終的に原発新設に賛成へと動くといえる。

 原発新設だけでは原子力政策は進みません。

 使用済み燃料の高レベル放射性廃棄物は現在、セラフィールド工場で保管しているが、これも当然、最終処分の方針を盛り込まないといけない。原発を運転している国は必ず廃棄物をどう処分するか決めないと、政策が行き詰まる。

 最終処分場が決まれば、米国と同じように原発新設が進みますね。

 確かに、最終処分地が決まれば新設しやすい環境が整う。われわれ電気事業者の立場からしても、中間貯蔵し続けるのはあまりやりたくない。きちんと政策として位置付ける必要がある。

 BNFLとしてはもう原発は新設しないのですか。

 その通りだ。今ある古い原発は解体していくしかない。直近の決算が赤字になったのも、廃炉に伴う負債を抱えているからだ。ただ、原子炉の設計から再処理まで、原子力にかかわるすべてのサービス事業の展開は強化する。英国や米国政府を相手にした放射能汚染除去などのクリーンアップ事業などにも力を入れる。

 ウェスチングハウス社の原子力事業部門の買収の狙いは。

 私は買収された時にそこの社長だった。原子炉の設計などで非常に優れた技術があり、この能力があれば世界中でビジネス展開できる。BNFLは今やフランスのアレバグループと並んで原子力分野を網羅する二大グループだ。厳しい国際競争を生き残るには、企業規模だけでなく、技術力などの奥行きが必要だ。

 具体的な今後の事業展開は。

 市場は欧州とアジア、米国の三つ。それぞれ異なった戦略がある。例えば、欧州はフランスだけで原発が五十基以上あり、燃料の設計などが大きいビジネスだ。日本では再処理のサービスに重きを置いている。米国向けはこれまで主に燃料供給だが、新設計画にもかかわっている。

世界最初の商業用原子炉、コールダーホール原発。今年3月には4基すべての運転が止まる(カンブリア州セラフィールド工場)




《英国原子燃料会社(BNFL)》

  英国政府が100%出資し、1971年に英国原子力公社から独立して設立された。原子力による発電事業だけでなく原子炉の設計、燃料製造、使用済み燃料の再処理、MOX燃料の製造、放射能汚染除去など原子力に関するあらゆる分野を網羅する。セラフィールド工場をはじめ、ウラン燃料を生産するスプリングフィールズ工場など16カ国51カ所に拠点を持つ。2001年度の売上高は約4600億円(1ポンド=約200円)。従業員は2万3千人。


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