水素生産に期待高まる
アフリカ最大の電力設備を持つ南アフリカが原子力発電を手掛けた背景には、アパルトヘイトの下で外交、経済的に孤立してエネルギー資源の輸入が難しく、ウラン資源の活用を図らざるを得なかった事情がある。開発中のPBMRは発電にとどまらず、将来の水素社会の到来に備えて水素製造にも利用できる原子炉として注目されている。
南アフリカの電力設備の容量は計四千万キロワット。発電電力量のうち石炭火力が92%と大半を占め、原子力は7%。水力は1%で、モザンビークの水力発電からも一部輸入している。
アフリカ全体では、南アフリカの発電電力量は断然トップで、ほぼ半分を占めている。二位のエジプトと比べても三倍近く、オーストラリアに匹敵する規模である。
石炭火力が中心の中で、一九八〇年代に相次いで二基の原子炉を稼働させたのは、豊富なウラン資源の存在が大きい。南アフリカのバールリーフズ鉱山は世界八番目の産出量で、二〇〇二年には八百二十トンのウランを産出している。
原発は、電力需要が伸びている南部の沿岸地帯に建設された。北東内陸部の産炭地から遠くて輸送コストがかさむうえ、石炭火力が多いヨハネスブルク市からも千キロ以上離れ、送電網の整備が難しい事情があったからだという。
原子力開発は、PBMRの実用化に全力を注いでいる。二〇一〇年ごろから電力が不足し始めるとみられる中、PBMRは建設期間が二年程度と電力需要の変化に合わせて建設しやすく、出力は小さいものの、一基約百億円と初期投資も少なくて済むためだ。百万キロワット級の軽水炉の場合は建設に五―六年かかり、一基三千億円前後必要で、期間、費用とも大幅に圧縮できる。
さらにPBMRのような高温ガス炉は、究極のクリーンエネルギーとして期待される水素の生産にも適している。
現在の工業的な水素製造法では天然ガスなどの化石資源を水蒸気改質しているが、その過程で地球温暖化を招く二酸化炭素(CO2)が排出される課題がある。高温ガス炉では八百度以上になる冷却材(PBMRではヘリウムガス)を利用し、水を熱化学分解して水素が生産できるという。
このため、世界各国は次世代の新型原子炉として高温ガス炉の開発に力を入れている。日本原子力研究所の試験研究炉HTTRは九八年に臨界に達した。中国・清華大も同HTR―10を建設している。米国、ロシアも小型モジュール高温ガス炉(GT―MHR)の開発を進めている。
日本や米国などはさらに、二〇二五年ごろをめどに冷却材が千度以上になる超高温ガス炉(VHTR)を開発する計画である。実用化で先行する南アフリカのPBMRは、水素社会の到来を告げる存在になりそうだ。
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