たまり とろける甘味、煮物の友 | '04/11/19 |
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伝統の「たまり」を使って煮物料理を作る佐藤さん。独特の色と味が出る
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トロリと鍋に「たまり」が垂れる。その濃色に煮込まれて、ゴボウやレンコン、タケノコもしっとりと黒ずんでくる。
知多湾に臨む愛知県武豊町で生まれ育った主婦佐藤和子さん(62)は、煮物に今もたまりを使う。「まろやかさが違いますよ」。とろけるような、コクのあるおいしさ。「シャビシャビしたしょうゆでは出ない」
人口四万人の同町に七、八軒ある醸造元の一つ、中定商店。スギ樽(たる)からくんだたまりを舌に乗せると、ほんのり甘味が。「ピリッとこないでしょう?”塩なれ”といって三年間熟成して出る丸みのある味」と五代目の中川隆文さん(62)。しょうゆのようにツンとこない穏やかな香りは、原料が大豆100%だから。
日本醤油研究所(東京)によると、江戸初期まで日本には、豆みそづくりの過程でできるたまりしかなかった。大豆と小麦が半々の今の「しょうゆ」の誕生は十七世紀後半。製法も比較的簡単で全国に広がったという。
徳川家康は大の豆みそ好き。戦場の携帯食にもしたが、今はほぼ愛知、岐阜、三重だけの産物。家康の好みを守るかのように、一帯は豆みそ圏を形成し、「たまり」を作り続けている。
町のスーパーにしょうゆが登場したのは昭和四十年代。それまでチョコレート色だった茶わん蒸しや油揚げが、すっきりと上品な色になった。
だが煮物は別。しょうゆだと「おいしい色が出ない」。量を増やすと塩分も増えて辛過ぎた。「やっぱり、たまり。おいしくて懐かしい味です」と佐藤さんはいう。
(中日新聞)
<メモ>
たまりは、普通のしょうゆと比べ味は濃いが、塩分は変わらない。煮魚やつくだ煮、照り焼きせんべい、ウナギのたれなど、色の濃い食べ物に使われる。しょうゆの全国シェアでは「こいくち」しょうゆが80%強、「うすくち」が15%、たまりは3%ほど。
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