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ワニの作り 山里名物 町おこしに'04/11/25

「脂の乗ったサバと新米。さばずしは秋が特においしい」と話す岩崎さん(左から2人目)たち
おふくろの味 北から南から  「祭りの前日には、町の魚屋さんがオート三輪でワニを売りに来てな。三、四キロは買ったものよ」。日本海にそそぐ江の川の上流域、広島県北のお年寄りたちは懐かしそうに話してくれる。

 ワニとは、この地方の方言でサメのこと。祭りや正月で親せきが集まったときなどに刺し身を大皿に盛り、ショウガじょうゆで食べる。

 「脂肪分が少なくて淡泊。年配の方はみんな料理ができますよ」。口和町にある「まんさく茶屋」の神川弘子さん(58)はいう。店には刺し身のほか、ワニの南蛮漬けやフライなどのメニューが並ぶ。

 ワニは体内のアンモニア成分が多い。これが防腐剤の働きをし、日持ちする。かつて山陰地方から運ばれ、中国山地の山里でも食べられる生身の魚として珍重された。

 しかし、交通機関が発達し新鮮な魚が入ってくるようになると、「ごちそう」という意識は薄れ、若者のワニ離れが進んだ。そうした中、郷土食をまちおこしに生かそうと一九八六年、地元の女性六人が開いたのが、この茶屋。地元の人や年配の観光客に加え、バイク旅行の若者たちも立ち寄るようになった。

地図  仲間がこの間、家族の介護などで辞め、今は土、日曜だけの営業。店を畳む話も出たが、いずれは一緒にやりたいという女性二人も現れた。

 神川さんは、店を守るつもりだ。腹が冷たくなるまで食べてもらう、という山里のあたたかいもてなしの心。「ワニを食べる文化を次の世代に…」。薄桃色の塊にスッと包丁を入れる日が続く。

(中国新聞)

<メモ> ワニは近年、東北や四国、九州などから仕入れられる。身の引き締まる秋から冬が旬。刺し身は筋に直角に包丁を入れるのがポイント。広島菜で巻いて食べることもある。ゼラチンの多い皮の部分は、煮こごりに使う。まんさく茶屋(土、日曜)TEL0824(87)2916。


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