水質改善や埋め立て抑制を目的にした瀬戸内海環境保全臨時措置法(瀬戸内法)は、10月で施行から丸30年の節目を迎える。この間、工場、生活排水の規制などでひん死の状態は脱した。しかし、「貧酸素水塊」と呼ばれ、海水に含まれる酸素が極端に減る異変が各地で起き、海の幸の命を脅かす。広島湾は、大阪湾、播磨灘とともに特に深刻な海域。海水温が上がるこの時期が最も警戒を要する。
夏場、海底で多発 水産庁 対策研究へ
広島市街地沖の広島湾。広島県水産試験場(音戸町)の調査船「あき」(19トン)が調査地点に到着した。職員が筒状の採水器を海中に投入。水面と水深5メートル、10メートル、海底から1メートル上の海水をくみ上げ、自動計測器に移す。
「底ほど酸素が少なくなる。魚は逃げられるけれど、貝などは死滅することもある」。資源環境部研究員の高辻英之さん(30)が貧酸素水塊の怖さを語った。
貧酸素は、水温の関係で海中の水循環が鈍る夏場に深刻化する。8月下旬の定例調査では、広島湾の11カ所で溶存酸素量(DO)を計測した。
海底付近のDOは、デルタに近い広島市南区宇品沖で2・03ppm、呉湾で1・87ppm。4ppm以下で魚介類の生命が危険にさらされ、死滅の可能性が一段と高まる2ないし3ppm以下を貧酸素水塊と呼ぶ。県水試の分析データは厳しい数値を示した。
広島湾の貧酸素水塊は主に、宮島(宮島町)と似島(南区)の北端を結んだ北側の海域約80平方キロで確認。水が滞る湾北部が特に著しい。県水試は1971年から月1回、DOのほか、水の汚れの指標となる化学的酸素要求量(COD)、透明度などを測定している。
瀬戸内法が施行された73年から30年間の推移をみると、宇品沖など広島湾では透明度、CODとも改善した。半面、毎年9月初旬のDO(海底付近)は、ほぼ4ppm以下で推移。慢性的な貧酸素状態を示す。
赤潮と違い、異変は海底近くで起きており、具体的な漁業被害は把握しにくい。現時点で対応策の決め手はない。
水産庁は事態を重視。総合的な研究費を2004年度予算の概算要求に初めて盛り込んだ。有明・八代海をモデルに、メカニズム解明と発生予測、計測技術の確立、防除策の研究などを進める。
「全国各地で導入できるシステムを確立し、水産資源回復につなげたい」と同庁漁場資源課。海だけでなく、内陸部や河川の環境を含めた抜本的な対応も必要だ。
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