藻場造成の条件を探る
瀬戸内海区水産研究所(広島県大野町)の野外実験水槽(容量2トン)。海水を引き込んで循環させ、アマモを茂らせただけの環境で、2センチのトコブシが1年で4センチに、6センチのアワビが8センチに育った。
「天然物や栽培物に比べれば、成長は遅い。でも、えさを与えなくても自然にこれだけ成長するんです」と、藻場・干潟環境研究室室長の寺脇利信さん(47)。引き込んだ海水の砂をろ過し、底に堆積(たいせき)しないよう工夫した結果で、トコブシやアワビの餌になるテングサも付いた。漁業資源の再生産に果たす藻場の役割の一端を示した。
水槽での実験は、継続的な観察を通じて藻が生育する環境や条件を探るのが目的。「育つにはそれだけの条件がある。むやみに移植したり、種をまいたりしても仕方ない」。20年に及ぶ研究の一つの到達点は、自然の環境を生かす視点だ。
その最低条件を満たすには水質改善と、藻場と連続する干潟、磯浜など浅場の回復を必要とする。条件が整えば「自然に育つ力はある。移植などは補完にとどめるべき」。生育する条件をより詳しく解明し、その環境、条件に近づけるかどうか、研究を続ける。
藻場造成を組み込んだ水産庁の漁港整備の調査・設計ガイドラインづくりにも参画した。意見が反映された一例が、大分県臼杵市の泊ケ内漁港拡張事業。県の委託を受け水産庁の公益法人「水産土木建設技術センター」(東京都)が実施した。
防波堤の新設に伴い、約4200平方メートルの藻場を造成。周囲を流れる藻の種子が付着しやすいよう、多様な水深が再現できる被覆ブロックなどを配置した。自然にクロメなどが繁茂し、整備終了から3年たった現在、もともとあった藻場の84%に回復。サザエやアワビなど漁業資源も増えている。モニタリングなど続け、今後の藻場再生に役立てられる計画である。
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