中国新聞
2003.10.27

地域の宝
   取り戻そう
 「里海 いま・みらい」  8.海を身近に

 ◆◇ 埋め立て地を憩いの場へ ◇◆
地図「高砂市&尼崎市」

水際アクセス 「尼崎21世紀の森」構想

 


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高砂市の埋め立て地で、企業から用地の一部を借り受けて整備される親水空間の完成イメージ図

  水際アクセス

操業中用地に人工池や小川

 兵庫県は、操業中の立地企業から工業用地を借り受け、親水空間につくり変える全国初の試みを進める。完成は2006年度の予定。

 借り受けたのは、高砂市の埋め立て地で操業する神戸製鋼、三菱重工業の敷地の一部。かつて一帯は、遠浅の海が広がり、白砂青松の地として知られた。しかし、埋め立てで市内の自然海岸はなくなった。

 「もっと、海に触れる場がほしい」。海岸線から遠ざけられた市民の声を受け、県、市が両社に打診した。会社側は当初、警備、安全上の理由から難色を示したが、粘り強い要望が実って協力を約束。延長300メートルの臨海部(約1200平方メートル)とアクセス道路用地の一部の無償貸与が決まった。

 既存のコンクリート護岸は取り壊せないため、潮の干満を利用して海水を引き込む池を整備する。海が見渡せる盛り土の高台、せせらぎのある遊歩道なども設ける。

 県はこれまでも、公有地の一部に小規模な砂浜、緑地などを整備。年間約30万人が訪れる人気スポットになっている所もあり、県加古川土木事務所の林秀機港湾課長(58)は「海際は県民にとって大切な憩いの場。他の企業への働き掛けも続けたい」と親水空間づくりに意欲を示す。

 


図「尼崎21世紀の森」構想
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  「尼崎21世紀の森」構想

100年かけ緑化推進

 自然海岸がほとんど見当たらないほど埋め立てが進んだ阪神地区の臨海工業地帯で、既存の埋め立て地を利用した緑地・親水空間づくりが始まった。重厚長大からソフトなどへの産業構造の変化で遊休状態になった埋め立て地を、憩いの場に切り替え、再利用する試み。100年もの長期計画である。

 兵庫県が打ち出した「尼崎21世紀の森」構想で、対象地域は尼崎市を東西に貫く国道43号の南側約1000ヘクタール。同市は大阪府と接し、阪神工業地帯の一翼を担うが、埋め立てで自然海岸は消滅した。構想では、遊休地などを活用し、自然と共生した都市再生を目指す。

 キーワードは「森」。阪神大震災後、復興住宅用に県が購入した埋め立て地29ヘクタールを拠点地区と位置付けた。住民や企業の協力を得ながら、まず拠点地区から緑化を推進。自然と調和したまちづくりを目指すほか、エコビジネスなど新産業誘致、循環型ライフスタイルの形成など幅広い。その中で、失われた瀬戸内海の環境の改善や創造も盛り込んだ。

 「自然海岸がないわが市にとって、ここは住民が海に近づける貴重な場になる」。担当課長の本井敏雄さん(52)が指さした拠点地区の整備イメージ図には、野鳥観察や人工干潟、人工磯、海浜などが描かれている。尼崎港で国際エメックスセンターが実施する環境修復の研究成果を活用する。

 尼崎、西宮、芦屋市の阪神エリアの臨海部の低、未利用の埋め立て地などは約320ヘクタールとみられる。「これまで環境に与えたつけが重いからこそ、役割を終えた遊休地を自然豊かな環境に戻す発想が必要だ」と本井さん。人と海を隔ててきた埋め立て地の役割が変貌(へんぼう)しつつある。