自転車をこぎ、デルタの街広島の河岸風景を戦後ずっと撮り続けてきた元地理教諭がいる。広島市南区の大段徳市さん(92)。四十万回近くシャッターを切った動機を、こんなふうに言う。
「そりゃ、あこがれよおね。戦前から、川岸に住むんが、わしら広島人の夢じゃったから」
郊外化が行き着いた観のある百十万都市の広島。都心の再生をテーマにした本紙アンケートには、六本も川が流れる都心の潤いを魅力に挙げた声が多かった。
毛利氏が一五八九年、太田川の三角州に広島城を築いてから四百年。水都を舞台に、ほどよい規模のにぎわいを生み出し、守り継いできた気風は、被爆の惨禍でいったん途切れたように見えて、しぶとく脈打っている。
それは「地域の遺伝子」と呼べるかもしれない。同じ水と空気を吸い、最大で四メートルの満ち干を繰り返す川面を眺めながら、営々と街をつくってきた果てしなき世代間のリレー。「被爆から立ち上がった広島の街がいとおしい」。愛着や誇りを抱くのは、大段さん一人だけではないだろう。
まちづくりの議論、提言はこれまで、他都市と比べては「あれがない、これがない」という、あげつらいが基調だった。同じ土俵での背比べは、首都東京のコピー化競争になりかねない。
二〇〇三年最大のヒット曲となったSMAPの「世界に一つだけの花」は、こう歌う。
♪No.1(ナンバーワン)にならなくてもいい
もともと特別なOnly one(オンリーワン)
東京にならなくてもいい。今ここにある、広島都心の魅力を認め、磨きをかける。地域遺伝子は何か、個性を掘り下げてみよう。再生の鍵は、きっと足元にある。
(文・石丸賢、写真・山本誉)
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●本紙アンケートに回答550通
・ぶらぶら歩けるんがええよねぇ
・どきどき、わくわくしたいよね
・川も岸辺も、もっと生かそうや
●広島都心で最も好きな場所・風景
1位 川、水辺の風景
2位 平和記念公園
3位 平和大通り
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