発想転換し市民と協働
今回の社会実験は、広島市道路交通局の新ポスト、「新たな道づくり整備担当課長」の初仕事でもある。
初代課長、清水俊介さん(51)。実験初日の二日、宣伝のチラシまきで中区の本通りに立った。受け取りを面倒がってよけて歩く人、目もくれない人…。温和な表情が、時折こわばる。「簡単にゃあ、受け取ってもらえんもんですね」
使い道づくり
技術職でずっと、道路畑を歩んできた。「行政の考えた道路がベスト」と信じていた。「設計通りつくれば、あとは自然と、沿道に街が育つ」とも。二〇〇三年四月に就いた新ポストは違った。使い道という、もう一つの道づくりを考えなさい、と言われた。
「新たな道って、どんな道路をつくるの?」。いち早く真意を測りにきたのは、国土交通省中国地方整備局(中区)の職員だった。同省は、後に「実験」費用の千五百万円を出し、支援することになる。
「いやいや、つくるんじゃあないんです」。苦笑いで答える清水さんに、相手は二の句が継げなかった。清水さん自身、当時は前例のない職務に戸惑っていた。
伸びない財源
新しいポストは、市道路交通局の池上義信局長(55)の発案、命名だった。市役所八階の局長室。遠く、広島湾を望む。「財源は伸びず、交通量も増えない、未経験の曲がり角に今いるわけでしょ。既成概念にとらわれず、何か新しい発想で、道路行政を考え直してみてくれ、と」
市ホームページの「道路交通局長の仕事宣言」では、こんな風に書いている。
道路や公共施設などの都市基盤は、とにかくつくればいいと建設そのものが目的化し、ハード優先の意識に陥りがちだった。市民や企業など地域との協働、参加を引き出し、まちづくりにつなげられるかどうか。本来の目的を見定めたい―。
住民の声聞く
そのキャッチフレーズが「ものづくり局意識から、まちづくり局意識へ」であり、第一歩が今回の実験だった。
住民のさまざまな声に耳を傾け、すり合わせ、実験プランに練り込む。「道づくりはまちづくり、まちづくりは人づくりなんだな、こりゃ時間がかかるぞ、とだんだん分かってきた」と清水課長。そう悟ったころ、実験スタートも当初予定より三カ月近くずれ込んでいた。
2004.2.5
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