「意識改革の好機」期待も
広島市の社会実験は、実はほぼ三カ月遅れの「難産」だった。
証拠が、実験のスポンサーとなった国土交通省道路局のホームページに残っている。各地の実験スケジュール案内にある「(広島は)平成十五年十一月ごろ」が、当初のもくろみだった。
車規制で紛糾
当てが外れたのは、時期だけではない。実験項目の一番手に挙げてある「歩行者専用区域の設定」も、おじゃんになった。自動車や自転車の乗り入れ一時禁止、である。このクルマ規制をやるかやらないかの議論が長引き、実験スタートが年を越した。
寒い二月は、人出が少ない。自転車での外出も減り、交通実験の効果が見えにくい。さらにタイミングが悪いことに、年明けから都心部で始まった、歩きたばこやポイ捨て違反者への罰則適用と重なってしまった。
「ポイ捨ての次は歩行のこと?と思うと、規制、規制で息が詰まりそうです」。広島市安佐南区のアルバイト木本由美さん(32)から、そんな手紙が取材班に届いた。木本さんは「車いすの方やベビーカーの方も楽しく歩ける、広い道にしてほしい」と実験の趣旨には賛同する。その一方で「抑えつけても変わらない。意識改革に、もっと時間をかけて」と望む。
レーン仕切る
すったもんだの末に実現したのが「歩車分離」。今回は本通りと交わる大手町通りで、土・日曜と祝日だけ試みる。道の両脇にカラーコーン(円すい形標柱)や植木鉢を並べ、歩行者専用レーンを仕切る。
その予行演習が四日、現場であった。車道の幅を、停車車両をかわせる五メートル幅から一台通るのがやっとの三メートル幅まで変えながら、歩行者や自転車の流れを見守った。
人通りが少ない時は歩行者レーンもゆったり見えるが、込みだすと逆に人の方が押し込められて窮屈そうだ。法律で原則、車道を通らねばならない自転車族は、どっちを進もうかと困惑気味。車道が区切られたせいか、かえって車の速度は上がったように映る。
「問題発見へ」
「人や自転車でごちゃごちゃの道路の方が、車は恐る恐る走るんですよね。この辺じゃ、接触事故なんて聞いたことないから」
大手町通り沿いの五階建て集合店舗「サンモール」の田中義久専務(68)が道端で、演習を見守る。「でも、こうやって社会実験をすると、何が問題なのかが見えてくる。みんなの気持ちがそろえば、どうすればいいかと次は考えるようになりますよ、きっと」
2004.2.7
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