■長期展望 求める声も
原爆ドーム(広島市中区)を西側の相生橋から眺めると、背後のビル群に「P」の字が目立つ。一帯は、市内有数の駐車場密集地。立体や平面、業務用など、八十カ所近くが立ち並ぶ。
何しろ、勝手がいい。平和記念公園はもちろん市民球場や本通り、百貨店が歩いて四、五分の距離にある。
割引券を発行
駐車台数二百十二台、一帯で最大級の駐車場を一九七六年から構える大手家電店「デオデオ」。広報担当の岡本多生(かずお)さん(49)は言う。「歩きや自転車でお越しの方も、車の方も皆、お客さま。不自由をかけられません」
駐輪割引券も独自に発行した。二〇〇一年春、紙屋町交差点の横断歩道の撤去で本店脇の往来が増えると、交通整理のガードマンも増員した。
目の前の交通問題に向き合う一方、岡本さんは市の長期展望を問う。「都心活性化の鍵は、買い物時間を増やす回遊性アップ。三十年先、歩行者と車との調和をどう取るのか、交通政策と一体のまちづくり未来図を早く示してほしい」。青写真しだいで、個々の店舗が打つ手も変わる、というのだ。
クルマ依存が進む社会の流れを、いつ、どう変えるのか―。時代の潮目を読んだ、骨太の政策転換を問う声は多い。 市は社会実験で、大手町通りの「歩行者専用ゾーン化」、つまり「自動車・自転車の乗り入れ禁止」を狙っていた。事前の市民アンケートなどから「買い物客の多い休日だけ実施」を落としどころと踏んで、地元理解を求め歩いた。
市の矛盾指摘
沿道の反発は強かった。「実験といっても、たちまち商売に響く」。駐車場の密集地にとって、大手町通りはマイカー客を引き込む動脈なのだ。地元住民も、いい顔をしなかった。数年前、車両通行を本通りとの交差点で止める交通規制で一帯が大渋滞した、苦い記憶が残っている。
何より、市職員には、ぐうの音も出ない反論が飛んできた。「市は今まで、駐車場を増やせと建設を勧めてきたはず。ここへきて、車を締め出せという実験では、矛盾している」
市は八七年から、都心部で新・増設する駐車場に対し、建設資金の利子補給を始めた。この助成制度で三十二カ所、約二千六百台分の駐車場が増えた。「駐車場の整備促進が、都市機能の増進を図る」として、都心部に車を引き寄せる政策を取ってきたのである。
ビルの敷地に駐車場建設を義務付ける付置条例(六八年)も同列だった。「歩きやすい都心づくりをうたうなら、車は遠ざけるべきだ」という道路交通局内の判断で最近、都心部では運用を緩和。離れた「隔地駐車場」を認めだした。
「都心の衰退は、駐車場を増やしても片付かない」と説く地域計画の研究者も出てきた。広島大大学院の奥村誠助教授(42)である。
2004.2.18
|