■傾斜が危険 案内不足も
広島市の都心部をそぞろ歩きが楽しめる街にしようと、試みられている社会実験。啓発チラシには、車いすの人の笑顔もある。「じゃあ、行ってみますか」。講演のため中区を訪れた、山口市のバリアフリー推進コンサルタント石川大輔さん(35)、ミカさん(34)夫婦と、一緒に歩いた。
中区八丁堀地区の百貨店をのぞいた後、金座街から本通りとアーケードを進む。この日は二人とも手動車いす。「地面のタイルが大きくて、移動しやすいですね」
平日とはいえ、ベビーカー、車いす、つえなどの人が少ないと、二人は口をそろえる。人口十四万の山口市より見かけないという。
安心の担保を
「商店街に、困った時に飛び込めるサポートセンターみたいなものが欲しい」とミカさん。思い切って外出するための安心の担保。初めて来た人でも、存在と場所がすぐ分かることが肝要だ。
今回の社会実験は、駐輪場や歩道のあり方に手を加えた。ただ、交通はあくまでも手段。大事なのは、街自体に歩き回る価値があるかどうかだ。
よく見ると、入り口に段差がある店も多い。だが、「都心はコンビニと違って、コミュニケーションの場でもあるから。ハードの問題ばかりじゃない」。周囲や従業員に一声かけて、力を少し借りれば済むという。
週末には、コーンで歩道と車道を分けている大手町通り。通常、歩道は二・五メートル幅だ。車と人のすれ違いもOKとされるが、路肩は水はけのために沈んでいて、車いすでは怖い。「前後より左右の傾斜が危険。ベビーカーも同じです」
買い物楽しく
トイレに行きたくなった大輔さんが、ショッピングセンターで聞いた。そのビルに車いす用はなく、近場の情報も得られなかった。「デリケートな問題だから、こればかりは助け合い精神では難しい。整備にはお金もかかるし、まずは目に付く案内が欲しいですね」
二人は郊外の大型店もよく利用する。でも、必要な物を買うだけで、面白みはないという。
街を歩けば、いいにおいに誘われ、人だかりにつられて思わぬ出費をするのも楽しい。「少しの苦労は覚悟の上で、行ってみようと思わせる安心と魅力があるかどうか」
インターネットなどが普及し、出歩かなくても欲しい物が手に入る時代。「だが移動活動の停滞は、経済活動の停滞につながる」と大輔さんは言う。移動にあまり自信がなく、今は都心で見かけない人たちも街歩きを楽しみ、お客さんになってもらうことは、にぎわいづくりの一つでもある。
2004.2.21
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