タイトル「ひろしま 都心のあした」
  パート 2  社会実験

    ■ 「本ブラ」同行 ■
    車いすで進んでみると バリアフリーもっと必要

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「街歩きを楽しめる材料はありそう。安心の仕掛けをつくって」と石川さん夫婦

<石川さん夫婦の横顔>大輔さんは、全身の筋力が弱る筋ジストロフィー。ミカさんは95年、通勤中の転落事故で首にけがをした。出会いは山口県立大。勤めを辞めた大輔さんは、大学院で「障害者の消費自立」を学び、ミカさんは編入学してケースワーカーを目指していた。学生結婚し、2年前にコンサルタントとして独立、全国を飛び回る。広島へは手で運転するマイカーで来た。

 ■傾斜が危険 案内不足も

 広島市の都心部をそぞろ歩きが楽しめる街にしようと、試みられている社会実験。啓発チラシには、車いすの人の笑顔もある。「じゃあ、行ってみますか」。講演のため中区を訪れた、山口市のバリアフリー推進コンサルタント石川大輔さん(35)、ミカさん(34)夫婦と、一緒に歩いた。

 中区八丁堀地区の百貨店をのぞいた後、金座街から本通りとアーケードを進む。この日は二人とも手動車いす。「地面のタイルが大きくて、移動しやすいですね」

 平日とはいえ、ベビーカー、車いす、つえなどの人が少ないと、二人は口をそろえる。人口十四万の山口市より見かけないという。

安心の担保を

 「商店街に、困った時に飛び込めるサポートセンターみたいなものが欲しい」とミカさん。思い切って外出するための安心の担保。初めて来た人でも、存在と場所がすぐ分かることが肝要だ。

 今回の社会実験は、駐輪場や歩道のあり方に手を加えた。ただ、交通はあくまでも手段。大事なのは、街自体に歩き回る価値があるかどうかだ。

 よく見ると、入り口に段差がある店も多い。だが、「都心はコンビニと違って、コミュニケーションの場でもあるから。ハードの問題ばかりじゃない」。周囲や従業員に一声かけて、力を少し借りれば済むという。

 週末には、コーンで歩道と車道を分けている大手町通り。通常、歩道は二・五メートル幅だ。車と人のすれ違いもOKとされるが、路肩は水はけのために沈んでいて、車いすでは怖い。「前後より左右の傾斜が危険。ベビーカーも同じです」

買い物楽しく

 トイレに行きたくなった大輔さんが、ショッピングセンターで聞いた。そのビルに車いす用はなく、近場の情報も得られなかった。「デリケートな問題だから、こればかりは助け合い精神では難しい。整備にはお金もかかるし、まずは目に付く案内が欲しいですね」

 二人は郊外の大型店もよく利用する。でも、必要な物を買うだけで、面白みはないという。

 街を歩けば、いいにおいに誘われ、人だかりにつられて思わぬ出費をするのも楽しい。「少しの苦労は覚悟の上で、行ってみようと思わせる安心と魅力があるかどうか」

 インターネットなどが普及し、出歩かなくても欲しい物が手に入る時代。「だが移動活動の停滞は、経済活動の停滞につながる」と大輔さんは言う。移動にあまり自信がなく、今は都心で見かけない人たちも街歩きを楽しみ、お客さんになってもらうことは、にぎわいづくりの一つでもある。

2004.2.21