■「駅に無料駐車場 不可欠」
「都心のまちづくりは、郊外のまちづくりにつながっている。抱き合わせで考えてほしい」。広島市の郊外、安佐北区可部に住む税理士事務所職員畑野洋一郎さん(38)からやんわり、取材班に注文が付いた。
車頼みの生活
例えば、車依存のライフスタイルからどう抜け出すか―。都心部が歩きやすさを求め「もう車では来ないで」と宣言しても、その成否を握るのは、郊外だ。山の斜面や丘陵地に団地群が張り付き、通勤や買い物、塾や習い事に通う子どもの送り迎えに至るまで、車頼みの生活にどっぷり浸る。郊外の住民が、より重い決断を迫られる。
「車で行けない都心なんか要らないと市民に思わせてしまえば、広島都心の求心力は落ちる」。畑野さんは三年前から大学院に通い、郊外と都心と表裏一体で都市交通の在り方を考えている。その軸は、やはり車ではなく、公共交通サービスの充実だ。JR可部線の発着駅で都心への結節点、横川駅の変ぼうに希望を感じるという。「排ガスなど環境問題や交通事故の多さ、整備コスト、歩きやすさのどれを採っても、軍配は明らか」
昨年十月には、広島デルタと郊外を結ぶ可部線の活用を考える住民グループ「広島シティネットワークとまちづくりの会」を立ち上げた。団地住民が車で平地まで下りたら可部線に乗り換えるライフスタイルづくりのため、駅に無料駐車場を確保するよう、市や県に意見書も出した。
原理主義ダメ
勉強会に最近招いた日本政策投資銀行参事役、藻谷浩介さん(39)の言葉に勇気づけられた。全国の市町村をほとんどすべて歩いた藻谷さんは、まちづくりを現場感覚で論じる。「車を遠ざけ、歩行者や公共交通が主役の街路にする欧米流のLRT(ライト・レール・トランジット)実現の鍵は、路面電車ではない。都心部まで乗り入れる公共交通の郊外駅にどれだけ、乗り換えの駐車場を確保するか、なんです」。パーク・アンド・ライドの勧めである。
こうも言った。「交通を論じるのに、原理主義はダメ。乗り物好きは公共交通に乗るべきだと言い張り、マイカー族は都心まで車で行かせろよ、とわがままを言う。ナンセンスな話で、連携しか答えはありえない」
広島都市圏では今、郊外型店舗の出店攻勢が相次ぐ。「郊外にない、都心のにぎわいや魅力は失いたくない。そのためには、まちづくりと絡めた交通政策が不可欠」と、畑野さんは見越している。
2004.2.26
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