官・民の境界 活用探る
上柳橋から上流の京橋川右岸(広島市中区)は、「京橋カフェ通り」の愛称がある。フレックス、JALシティ広島の二つのホテルが、二〇〇〇年から冬場を除いた一定期間、河岸緑地にカフェテラスを開いている。
外国人に着想
フレックスは一九九四年、川辺を生かしたデザインに建て替えた。「広島の人は恵まれすぎて、川のありがたみがわかっていない」と大阪出身の高橋弌(はじめ)社長(61)。JALシティの先小山英夫社長(53)は、ビュッフェ形式の朝食で、外国人客がコーヒーを持って河岸へ出たのがヒントになったという。実現には複雑な仕組みが必要だった。治水一辺倒の河川法では、河川敷での商売は原則無理。広島県や広島市の後押しもあり、町内会を中心とした運営委員会が営業をホテルに委託、収益はまちづくり活動に還元する形を整え、公共性を担保した。
いすやテーブルは常設できない。日よけ、雨よけもダメ。「ワインはいいが、日本酒はどうか」…。制約だらけで、横やりも入る中、試行錯誤で続けてきた。
「水辺を仲間との飲み食いの社交の場として楽しむのは、日本伝統の生活文化」。二十年前、中区の基町環境護岸を設計した中村良夫・東京工業大名誉教授(65)は、長年力説してきた。
京都・鴨川の河原に縁台を持ち込んで夕涼みする風景が、幕末には描かれている。「当事者はもちろん、見る者の心も浮き立つ。これこそ都市のにぎわいのコツ。どうやらその鍵は、官と民の境目をうまく使うことではないか」というのだ。
国が参入許可
広島市などの要望を受け、国は水辺の占用や経営への民間の参入を二十三日付で認める。両ホテルは今後、有識者や行政でつくる組織と契約し、協賛金を支払ってオープンカフェを営むことになる。協賛金は、施設の維持管理などに使う。
官と民の境界を、使いやすくするための一歩。何ができて、何ができないかは今から詰める。
地域と共存へ
周辺のマンション住民からは、「お祭り騒ぎじゃ困る」との声も聞こえる。「年寄りが病院通いでなく、カフェで日なたぼっこする町に」(高橋さん)「夜でも女性同士が歩ける通りに」(先小山さん)。両社とも地域と共存できる道を探る。
カフェの運営委員長を引き受けてきた磯部典宏さん(44)は、ホテル近くでノリの加工販売業を継ぐ。東京で山や川のない息苦しさを知った。競って故郷を誇る外国人に触れた。三十すぎて親となり、ふるさとへの愛着がわいてきたという。
都心なのに散歩ができる。スズキも釣れる。「わしの生まれたとこも、結構すてきじゃったんよ」。時間をかけて、カフェがまちに溶け込むよう願う。「言葉にしにくいけど、ここにしかないもの、友達に『来いや』と力強く語れる風景ができたらいいよね、息子の代には」
2004.3.23
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