■「もてなし」 官民にズレ
平和記念公園(広島市中区)と向き合う元安橋東詰めの緑地帯。「水辺のコンサート」に、熟年夫婦や親子、カップルなど幅広い世代が耳を澄ます。ビートルズナンバーが終わると、対岸の花見客も拍手を送った。先週末の光景である。
回重ね常連客も
今年初めて継続イベントとなったコンサート。市から委託された特定非営利活動法人(NPO法人)「公共空間活用推進プロジェクト」(山根進理事長)が二月末から週末ごとに計七回開いた。地元のミュージシャン約六十組が出演。回を重ねるうち風景になじみ、常連客も出始めた。
その一人、西区の主婦渡部和子さん(60)は「のどかな川べりで音楽を聞いていると、心が和む。つい足を運んでしまいます」とほほ笑む。
コンサートは、市などが進める「水の都ひろしま」構想の一環。河岸でお茶が飲める季節限定のオープンカフェ、計画段階の船上レストランと併せ、この場所を「もてなしの水辺」に位置付ける。公共性の高い利用に限っていた河岸の占用を、民間にも広げる社会実験だ。
ところが水面下では、公共空間のあり方をめぐり、行政とNPOに思惑のズレが生まれていた。
山根さん(54)たちは、腰を落ち着けて音楽を楽しんでもらおうと、「水の都」構想を担当する市都市政策部に飲食の営業を打診した。だが、公共の場での商行為は法に触れるとされ断念。「ならば」と、市の外郭団体・広島観光コンベンションビューローが担うオープンカフェの開設を早めるよう求めた。
「まさに縦割り」
カフェはしかし、桜の開花に合わせて当初予定通り三月下旬にオープン。三月末までの委託契約だった山根さんらのコンサートと重なったのは二日だけだった。市内部での調整はなく、「音楽とお茶のハーモニー」は欲求不満に終わった。
「まさに縦割り行政。パーツに分けた社会実験は、成果が限られる」と山根さん。これに対し、市まちづくり担当課長の佐名田敬荘さん(49)は「実験は企画力やスピードに優るNPOの発掘が本来の目的。何事も最初からうまくいかない」と言う。
コンサートの担い手の発掘を目指す市は本年度、別のNPO法人と契約する方針だ。その手続きのため再開は四月半ばの予定。桜吹雪のこの週末は、音楽なしでカフェだけとなる。
三月下旬、まちづくりをテーマに中区であったシンポジウム。コーディネーターを務めた都市計画家松波龍一さん(56)=広島県湯来町=が言った。「行政にとってささいなことが、実は市民にとって切実だったりする。かといって、市民が行政に負担をかけすぎると、前に進まなくなる」
ようやく風景として定着してきた水辺のコンサートは、民と官の境界をうまくつないで実を結ぶ難しさを示す。
2004.4.3
|