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■特集 南アフリカ編 核廃絶への歩み
冷戦終焉 世紀の決断 「軍縮」「不拡散」今や先導役 '04/5/10

 原子炉、平和利用に回帰

 南アフリカ共和国は、豊富なウラン資源を背景に、第二次世界大戦後間もなく原子力研究に乗り出した。米ソ冷戦下の一九七〇年代、周辺諸国でのソ連の影響が強まるなか、秘密裏に核兵器の製造に着手。だが、八九年にはベルリンの壁が崩壊し、間もなくソ連邦も消滅した。周辺国での脅威が減じる一方、核開発疑惑とアパルトヘイト(人種隔離政策)への国際社会の非難は一段と強まり、南ア政府はついに九一年、すべての核兵器を放棄した。人類の悲願の一歩を実現した「先駆者」は今、スウェーデンなど六カ国とともに「新アジェンダ連合(NAC)」を結成。国連などを舞台に核軍縮・不拡散へのイニシアチブを取る。南アを訪問した広島世界平和ミッション(広島国際文化財団主催)の第一陣五人と同行記者二人は、かつての核兵器関連施設や開発に参加した物理学者らを訪ね、決断への背景と教訓を学んだ(田城明、岡田浩一)

 オレンジ色の照明に、円筒状の研究炉「サファリ1」が浮かぶ。縦九メートル、直径六メートル。核兵器の原料となる広島型と同じウラン235は、ここから取り出された。

 首都プレトリアから西へ約三十キロ。コスモスが揺れる田園地帯を車で走り、南ア原子力公社(NECSA)のぺリンダバ核関連施設を訪れた。

 中核の研究炉は五七年に米国の支援で完成した。赤道以南での初の原子炉は、六五年に核分裂反応の臨界に達した。

 核開発は当初、鉱物資源の採掘など「平和利用」を目的に始まった。ところが、七〇年代半ばから近隣のモザンビーク、アンゴラ、ジンバブエが相次いで独立し、親ソ政権が誕生。アンゴラにはキューバ兵約五万人が駐留した。

 周辺諸国の脅威に、すでに濃縮ウラン工場から兵器レベルのウランを生産していた南アは「抑止力の保持」へと拍車をかけ、七七年に最初の原爆を完成。地下核実験場も造った。

 アパルトヘイトへの批判に加え、こうした核開発疑惑に対して、国連安全保障理事会は同年十一月、南アへの武器禁輸決議を採択。国際的な孤立のなかで、一層開発を加速させた。廃棄前、核弾頭は計六個。七個目の高濃縮ウランも準備されていた。

 しかし、フレデリク・デクラーク大統領が誕生した八九年には、東西冷戦構造は終焉(しゅうえん)を迎えていた。大統領は国際社会への復帰を目指し、アパルトヘイト撤廃と核兵器廃棄を決断した。

 ケープタウン大の紛争解決センター研究員ガイ・ラムさん(30)は「決断の理由はほかにもある」と指摘する。一つは経済情勢の悪化に伴う軍事予算の削減。さらに、廃棄を決めた時期は、人口の約80%を占める黒人への政権移譲がほぼ決まった時期と一致する。

 「黒人政権に核兵器を渡すことが不安だったようだ」とラムさん。根拠を尋ねると「九四年の民主化以前の政府書類は隠されている。核廃棄のプロセスを学び他国のケースに生かすためにも、今後も資料発掘などの調査を進めたい」と話した。

 核兵器から取り出された高濃縮ウランは、国際原子力機関(IAEA)の管理の下、ぺリンダバの敷地内に保管し、サファリ1の燃料として使用。研究炉は今も医療用や産業用などの目的のために稼働を続けている。

 「高濃縮ウランの残量は機密だが、まだたっぷりある」と案内役の研究員。NECSAのゼネラル・マネジャー、カレル・フシェー博士(64)は「特に医療分野では商業的成果を挙げている。核開発技術が平和利用に転換できることを証明できた」と誇らしげに言った。

 
《関連年表》
1944年ヨハネスブルク近郊で、金発掘の副産物としてウラン鉱石を発見
48年原子力委員会を設置し、本格的に原子力研究に着手
57年国際原子力機関(IAEA)の設立メンバーとして加盟▽研究炉「サファリ1」を建設
65年サファリ1で臨界達成
77年カラハリ砂漠に核実験坑を建設▽国連安保理が南アに対して武器禁輸決議
79年米衛星が喜望峰沖の大西洋上で閃光(せんこう)を観測。核実験疑惑起こる。南ア政府は現在も実験を否定
89年核兵器の製造中止
91年6個の核弾頭と未完成の1個をすべて解体▽アパルトヘイト関連法を廃止▽核拡散防止条約(NPT)に加盟
93年デクラーク大統領が核兵器所有と完全廃棄を公式に表明
94年初の国民投票で黒人政権樹立。マンデラ氏が大統領に就任
96年アフリカ非核兵器地帯(ぺリンダバ)条約調印
98年南アなど計8カ国(現7カ国)で新アジェンダ連合を発足

【写真説明】南アフリカ核開発の象徴的施設である研究炉「サファリ1」(プレトリア市外)


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