広島市の平和記念式典に出席した小泉純一郎首相は六日、三年連続で被爆者代表に会うことなく、被爆地を後にした。式典では被爆国のリーダーとして「核兵器の廃絶に全力で取り組む」と決意を述べたが、拍手はまばら。首相はヒロシマから遠ざかるばかり―。出席者、被爆者たちに、そんな印象を抱かせた。
「声が小さい上に、力もなく…」。首相のあいさつを聞いた安佐南区の無職男性(81)は物足りなさを口にした。国会で「人生いろいろ」などと強弁したのと裏腹に、首相は原稿に目を落としたまま、淡々と読んだ。マイクを通しても聞き取りにくく、会場からは「聞こえない」と、いらだち交じりの声も飛んだ。
式典後、首相はイスラエル、パレスチナの高校生と交流。「手をつないで平和を推進して」と語りかけた。続く記者団とのやりとりは二分足らず。「憲法九条改正の議論がなされるべき」との発言を残して平和記念公園を離れ、午前十時前には広島空港(広島県本郷町)をたった。
中区のホテルでの「被爆者代表から要望を聞く会」は、今年も坂口力厚生労働相に任せた。会の後、広島県被団協の坪井直理事長は「せっかく式典に参加されたのなら、十分間でいいから時間を割いてほしい。被爆六十年の来年こそは実現してほしい」と語った。
九条改正 首相「平和主義前提に」
小泉純一郎首相は六日、広島市の秋葉忠利市長が平和宣言で「擁護」を求めた憲法の改正論議について、「これから政治課題になる。平和主義、基本的人権の尊重、そういう前提で憲法九条改正の議論がなされるべきだと思う」との認識をあらためて示した。広島市中区であった平和記念式典に出席後、記者団の質問に答えた。
一方、自衛隊のイラク多国籍軍参加に、被爆者らから「戦争放棄や戦力不保持を定めた憲法九条がないがしろにされている」などの批判が出ていることに対し、「憲法の枠内で派遣している。自衛隊は人道復興支援に、国民の善意を代表して汗を流してくれている」と重ねて主張した。
北朝鮮の核開発問題を契機に、与党内には核武装を検討すべきだ、との声も出ている。非核三原則について首相は「日本政府の基本方針であり、今後も堅持する」との立場を強調した。
【写真説明】平和記念式典の会場に入る小泉首相。被爆者との対話はなく、約2時間後には「機上の人」となった(広島市中区)
    
|