社説・天風録
(天風録)記憶の継承 '05/8/6

時とともに記憶は薄れ、体験は風化する。まして六十年もたてば。しかしながら、忘れてはならない記憶がある。ヒロシマ・ナガサキの被爆体験をどう継承していくか。今年も「原爆の日」がやってきた▲広島市原爆資料館の東館地下で、先月から始まった被爆者遺品展。昨年度に寄せられたうち百五十点を展示している。その中に、旧山中高女の二年生だった竹中美智子さん(当時十六歳)の遺髪と「高女付属・竹中」と書かれた名札がある▲瀬戸内海の大崎下島(呉市)から広島の寄宿舎に入り、学徒動員の疎開作業中に被爆。三日後の九日に死亡となっている。島から捜しにきた父親の武義さんが十二日、似島の収容所で見つけ、遺骨と遺品を受け取った。被爆の状況、どんな最期だったのか一切分かっていない▲武義さんは一九八七年に八十四歳で亡くなり、美智子さんの弟の高明さん(69)が自宅の仏壇で大切に保管していた。その遺品を資料館に寄贈した高明さんは「戦後のひと区切りがついた気持ち」という▲このほか、焼けただれた腕時計、革ベルト、ぼろぼろの衣服…。一年前からの収集分は七月末で、原爆資料館の遺品や被爆資料は五百九十九点に上る。また、追悼祈念館の遺影は二千八百十六点、体験記は三百二十一点寄せられた▲その一つ一つに遺族のさまざまな思いが凝縮されている。それだけに遺品や遺影は、見る人の心に迫ってくる。記憶の継承に「遺品は語る」。

MenuTopBackNextLast

ホーム