永世中立国オーストリアでは、国外で平和の奉仕活動をすれば、徴兵が免除される。しかも、政府が活動費の一部を支給すると聞いて驚いた。ヒトラーのドイツ帝国と統合、ユダヤ人や平和主義者らを大量虐殺した苦い経験に根差す制度である▲ウィーン大で日本学を専攻したステファン・ベルガーさん(24)は、兵役の代わりにこの制度を選び、昨年夏に来日。広島市の原爆資料館で一年間働いてきた。「ヨーロッパから見た戦争だけでなく、アジアから見た戦争を知りたい」と思ったからだ▲初めて原爆ドームを見上げた時、ここで親友を奪われたような気持ちになった、という。感受性の豊かさが言葉の端々から伝わってくる▲被爆証言の翻訳、館内の案内、平和市長会議への加盟呼び掛け…。大学で習った日本語を生かし、被爆地で「兵役の代替役務」に励む。原爆に遭った人たちからも直接話を聞き、「かけがえのない宝物がたくさんできた」▲徴兵制を敷いている約百カ国のうち、「良心的兵役拒否」を認めているのは三十カ国ほどだ。代替役務は国内での医療や福祉などが多く、オーストリアの国外平和奉仕活動は異色である。選択する人数は決して多くないが、地道な活動を通じて、レバノンをはじめ戦火が絶えない国際社会に「罪を犯すな」と訴えている▲ベルガーさんは今月末で奉仕期間を終える。帰国したら、子どもたちのために原爆をテーマにしたCDロムを作るつもりだ。
    
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