被爆者援護法に基づく原爆症認定の集団訴訟で広島地裁はきのう、国の申請却下を取り消す判決を言い渡した。五月の大阪地裁に続き、またも国の完敗といえる内容である。六十一回目の原爆の日が目前に迫り、被爆者の平均年齢は七十三歳を超えている。残された時間は少ない。認定拡大への道を早急に検討すべきである。
全国の十五地裁に提訴された訴訟のうち、原告は今回が四十一人で最も多い。判決はその全員を原爆症と認定した。最大で四キロ余り離れた場所にいた「遠距離被爆者」や、原爆投下後に爆心地近くに入った「入市被爆者」も含む。現行の認定の在り方に根底的な疑問を突き付けたといえる。
全国には三月末現在で二十六万人近い被爆者がいる。しかし原爆症の認定を受けているのはわずか約二千三百人、0・9%にすぎない。悲惨な体験に高齢化が重なり、多くがさまざまな病気に悩まされている。原告たちも甲状腺がんや前立腺がん、白内障など重い病に苦しむ。「体をむしばむ病を原爆のせいだと国に認めてほしい」。当然の思いだった。
裁判では、病気と放射線との因果関係を判断する認定基準の妥当性が争点となった。厚生労働省の基準は、爆心地からの距離で放射線の被曝(ひばく)線量を推定し、性別や病名を組み合わせて判断する「原因確率」と呼ばれる方式だ。しかし現実には爆心地から二キロ以上というだけで、ほぼ機械的に排除されてきた経緯もある。
広島地裁の判決は「残留放射線による外部被曝や内部被曝を十分に検討しておらず、弱点がある」と指摘。現行の方法で算出される線量を「最低限度の参考値」と言い切った。原因確率を「一つの考慮要素」とした大阪地裁の判決から、さらに踏み込んだ印象である。大阪地裁と同様、急性症状の有無などを含めた総合的な検討が必要としている。
放射線が人体に与える影響は、全容が解明されたとは言えないのは事実である。しかし、因果関係が十分裏付けられないのを口実に、被爆者が切り捨てられるようなことがあってはならない。むしろ研究を前に進め、被爆者援護を充実させるのが筋であろう。
二つの判決では、いずれも全員が原爆症と認定された。厚労省は敗訴を重く受け止め、早急に認定基準の見直しを始める段階に来たのではないか。控訴などはもってのほかである。
    
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