|
【天風録】比治山から見た原爆 |
'07/8/8 |
|
広島市街地の東部、南区の比治山には緑があふれる。昼休みなど、炎天を避けて木陰で涼を取る車の列ができるほど。六十二年前のあの日、山全体が熱線と爆風をいくらかでも食い止める「壁」になったこともよく知られる▲山頂付近にある放射線影響研究所は前身の原爆傷害調査委員会(ABCC)を含め、ことしが開設六十周年。8・6にあった講演会をのぞいた。原爆と通常爆弾の決定的な違いである放射能について教わりたかったからだ▲講師は主席研究員、中村典さん(60)。物理の基本から説き起こし、放射線が人体に及ぼす影響をできるだけ多くの人に理解してもらおうという熱意が伝わる話しぶりだ。予定時間を大幅にオーバーした▲聴衆も熱心で、質問が相次ぐ。「被爆と被曝(ひばく)の違いは」「死の灰はどう降るのか」「染色体が傷つく仕組み」…。やりとりをメモするだけで用語辞典ができそうだ▲「茨城県東海村の臨界事故で避難地域にいた知人は今後も大丈夫だろうか」などとテーマは次第に深刻に。ABCCから半ば強制的に検査を受けたという人は、調査体制への疑問や批判もぶつける。中村さんは一つ一つ、冷静に丁寧に応じていた▲本紙連載「放影研60年」によると、国の財政難などから将来の運営見通しが不透明という。被爆者が高齢化する中でも、遺伝への影響をはじめ研究課題はなお多いと聞く。地道な活動が核廃絶につながればと願いつつ、小高い山を下りた。
    
|