被爆六十二年を迎え、被爆者援護をさらに充実させる動きに一刻も早くつなげたい。広島市を訪れた安倍晋三首相が、原爆症認定基準の見直し検討を表明した。
被爆者の平均年齢は七十四歳を超えた。悲惨な体験に加え、戦後も大変な苦労を重ねて今、がんをはじめさまざまな病気に苦しむ。しかし原爆症と認定され医療特別手当を支給されているのは、約二十五万人の被爆者のうち二千二百人余りにすぎない。
背景には厳しい認定基準がある。爆心地からの距離を基に被曝(ひばく)線量を推定し、病気が発生する確率を計る「原因確率」である。被爆者たちは「残留放射線や内部被曝の影響を過小評価している」と批判してきた。
原爆症の認定を求めて相次ぐ集団訴訟で国が六度の敗訴を重ねたのも、基準を機械的にあてはめるだけのような認定作業に司法が異議を唱えたためである。被爆者をできるだけ救済する方向での運用を求めているともいえる。
こうした流れもあってか、安倍首相は五日夜「専門家の判断のもとに、見直すことを検討させたい」と表明した。就任後初めての平和記念式典出席を前に、被爆者たちと懇談した席でだった。
ただし柳沢伯夫厚生労働相はきのうの記者会見で、専門家による検討会発足を約束しながら「科学的」を強調。「これまでの基準と認定の結果を照らし合わせたときに、何か見直すべき点がないのか、という観点を中心に見直しをお願いしたい」とも述べた。なんともまわりくどい。
さらに日程について被爆者の要望を聞く会で問い詰められ「検討会で一年かからないタイミングで議論し、知恵を出していただきたい」と述べた。こんな調子でスムーズに進むのだろうか。
厚労省の姿勢を突き崩すには大変なエネルギーが必要だろう。予算の問題もある。それを乗り越え、基準の大幅な見直しを求めたい。政治の出番である。
広島で安倍首相と柳沢厚労相は、原爆症認定訴訟のうち控訴期限の来ていない熊本地裁の訴訟で控訴断念を求められたのに対し、明確な回答を避けた。在外被爆者が手帳申請のため日本に来なければならない現状には、従来の見解を繰り返した。
政府も掲げる核兵器廃絶への意思は、被爆者の援護充実を通じても示すことができる。安倍首相のリーダーシップにかかっている。
    
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