|
静寂に包まれた未明の平和記念公園。原爆慰霊碑近くの木の葉で、クマゼミが人知れず羽化する(撮影・坂田一浩)
|
包まれる静寂 生の営み
夜明け前、原爆慰霊碑(広島市中区)近くのボダイジュで、羽化を終えたばかりの白いクマゼミを見つけた。根元には幼虫がはい出した穴があった。朝日が差し込み、大空に飛び出すまで数時間。葉にしがみつき、羽を必死に乾かす。祈りの空間で繰り広げられる、知られざる生の営み―。
夜の平和記念公園の雰囲気は昼間とは一変する。定期的に巡回する警備員の足音が石畳に響く以外は、静寂に包まれる。
中区の谷本忠昭さん(70)は毎日午前四時ごろ、公園を訪れ、原爆慰霊碑前でこうべを垂れる。納められた原爆死没者名簿には親類の名もある。「八月六日が近づくと自然と早く目が覚める。静かな夜明け前の方が、雑念なく祈りをささげられる」
午前六時を過ぎると、公園内にラジオ体操をする人たちや通勤・通学者が姿を見せ、せわしなく行き交う。新たな一日が始まる。(田沼規充)