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照明で輝く祈りの泉。原爆ドームや原爆慰霊碑を背景にキャンドルのように揺らめく(撮影・坂田一浩)
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「あの日」への思い包む
夕闇が迫ってきた。平和記念公園(広島市中区)南側の「祈りの泉」がライトアップされ、幻想的な光に包まれた。太陽が沈むと高さ約十メートルの水柱が輝きを増した。
あの日、熱線に焼かれた多くの人が水を求めて息を引き取った。原爆犠牲者にせめて水をささげたい―。そんな思いが凝縮された公園は、水の風景にあふれている。
八月六日の平和記念式典に先立ち、原爆慰霊碑に水を手向ける恒例の「献水」。市内十六カ所の名水を竹筒に移し替え、碑の前へ運ぶ。今年、自宅近くの名水を携える佐伯区の森本得夫さん(80)は、兄と叔母を原爆で亡くした。献水は四回目になる。「水を飲めずに死んだ人、飲んですぐ死んだ人…。すべての犠牲者に水を届けたい」と強く祈っている。
国名勝に指定された公園は「慰霊と平和希求の象徴的な場」としての価値が評価された。あの日から六十二年。今年もまた、国内外からの来訪者を迎える。(田沼規充)