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ハスの花が咲く池の回りをゆっくり横歩きするサワガニ。都心の公園で、静かに生命が息づく(撮影・坂田一浩)
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人工池 ひっそり息づく
平和記念公園(広島市中区)の「平和の鐘」の周りに、深さ約八十センチほどの円形の人工池がある。昼下がり、鮮やかに開花したハスの影からサワガニがひょこり躍り出た。繁殖期らしく、藻が絡んだ水の中には、体長一センチに満たない子ガニが元気よく動いていた。
近くに事務所を構えている弁護士の緒方俊平さん(60)は公園を歩くたび、池のメダカやアメンボに目が行くという。「命の尊さをかみしめられる場所」。時には瞳を閉じて、シジュウカラやエナガなど、周囲の野鳥のさえずりに、ほっと息をつく。
いつごろから池に生き物たちがすみ着いたのか。公園を管理する市もよく分からないという。都心でひっそり息づく生態系。観光客が平和の鐘をつくのを見守るかのように、ハスの葉の上でトノサマガエルがじっとしていた。しかし、人間の靴音が近づくと、静かな音をたてて水中に消えた。(山成耕太)