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【社説】「原爆」「沖縄戦」解説書 きちんと教える力培え '08/7/1

 原爆投下や沖縄戦などの歴史を小学校で分かりやすく学べるようにするための適切な方向付けといえよう。

 文部科学省は、二〇一一年度からの新しい学習指導要領の解説書に、広島・長崎への原爆投下や沖縄戦、東京大空襲など各地への空襲などの事例を明記する方針を決めた。初めてのことである。都道府県教委の指導主事らを集めたきのうの会合で説明した。

 教師が授業をしていく際の指針となるのが解説書だ。指導要領の改定に合わせて小中高の教科ごとに作成され、指導要領の内容を補足する。

 法的な拘束力はないが、出版社は解説書をもとにして教科書を編集している。今回の記述によって戦争の記述に、より厚みが増すとみられる。

 現行の小学社会科の教科書でも原爆投下や沖縄戦などが扱われていないわけではない。しかしとても十分ではない。

 原爆についてわずか一ページしか割いていない例もある。投下されたそれぞれの年月日と、両市で計二十一万人余が亡くなったなど簡単な内容しか書かれていないようでは、子どもたちが関心を持つことは難しかろう。

 被爆県・広島にしてそうだ。原爆が投下された「八月六日午前八時十五分」を答えられない子どもたちが増えている。

 広島県では、教職員組合を中心に独自の教材による平和学習が進められてきた。しかし旧文部省の「是正指導」に基づく県教委の方針が出され、その余波で平和教育は後退していった。年間カリキュラムを作成する小中学校の割合は、一九九七年の95%が〇四年には23%と激減している。

 今回、文科省の姿勢転換のきっかけとなったのは、沖縄戦の集団自決をめぐる問題だった。高校日本史の教科書検定で「日本軍の強制」という記述が削除されたのに対して、県議会や県民が激しく反発し「軍の関与」という文言で復活した。

 沖縄県民から「小学校の授業でも取り上げるように」と要請された渡海紀三朗文科相は「沖縄戦に関する学習が一層充実するよう努めたい」と約束していた。

 新しい解説書によって、戦争がもたらす惨禍についてきちんと教えることが明確に示されたといっていい。

 しかしそれだけで子どもたちが「戦争と平和」に関心を持つようになると考えるのは早計だろう。いかに教えるか、という問題が残っている。

 原爆によって多くの人が亡くなっただけでなく、街の歴史と文化が破壊され、生き残った人も心身に癒やしがたい傷を負った。戦争そのものが悪だということが、小さな胸に響く教え方を、教師も考えなければならない。

 平和学習の経験のない若い教師も増えている。ベテランと若手が知恵を出し合って、現場力を培いたい。そのための環境づくりも望まれる。


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