原爆資料館のリニューアルに向けた検討が進んでいる。老朽化した本館などを再整備し、被爆体験を次世代に分かりやすく伝えるため展示も見直す。体験継承と平和発信の拠点としての機能をさらに高めていくよう英知を集めたい。
一九五五年の開館、九四年の東館増設に続く大がかりな整備である。広島市は、ハード面では老朽化が進んだ本館の補強工事を行う。耐震性も不十分なため、国重要文化財の建物の形を損なわないよう基礎に免震ゴムを設ける方式での工事を考えている。
ソフト面では、展示の構成と見学順路を見直す。今は、東館で被爆前からの広島の歩みや世界の核状況などの展示を見て本館に入る。ところが来館者が見て歩く時間は平均で四十五分。東館で時間を費やし、本館をかけ足で回る傾向がある。これでは被爆の現物資料をじっくり見てもらえない。
原爆投下がもたらした被害の実態を正確に伝えるのが資料館の使命。本館をまず先に、という順路の変更は当然だろう。
市は今春、基本計画の検討委員会を設置した。有識者二十三人が二年がかりで計画をまとめる。見学順路については、東館を出入り口にしてエスカレーターで三階に上がり、本館を回った後で東館を見る順路を採用する方向で議論が進んでいる。
ただ、六十年余りたって戦争の記憶も薄れがちだ。とりわけ若い世代が戦前や戦時下の生活を想像することは容易ではない。被爆体験を分かりやすく伝えるには、さまざまな工夫が欠かせない。
日常の暮らしとおびただしい命を一瞬にして都市ぐるみ断ち切った原爆。そのむごさをわが事に引き寄せて理解するには、見る側に準備が要るだろう。本館に入る前に設けるコンパクトな「導入展示」は、被爆前の広島の人々に思いをはせることができる空間にするのが望ましいのではないか。
視聴覚に訴える展示を、との声が学校側などにある。映像などバーチャルな手法は、被害状況などを再現するのには向いている。だが、被爆の惨状については、焼けこげた衣服などに接して「どんな人が」と想像力を膨らませていくよういざなうべきだろう。
展示を見終わった後、気持ちを整理し、表現や対話もできる場の設置も、検討項目に挙がっている。子どもの発達に応じたり、より深く学習したりするための、選択コースの設置も課題だろう。資料館のスペースは限られる。例えば体験を封じ込めてきた被爆者の心の痛みを理解してもらうためには、多くの手記や遺影を収める国立広島原爆死没者追悼平和祈念館との役割分担が必要となってくる。
原爆資料館には昨年度、百三十三万九千人が訪れた。入館者数はここ数年増えているが、平和教育は低迷している。戦争体験のある教師が学校からいなくなり、教え方に悩む教師も多い。核時代に警鐘を鳴らす取り組みの種をまくためにも、平和学習を支援する場としての機能も高めていきたい。
    
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